そんな先の見えない戦いの風向きが変わったのは、コロナ禍だった。矢本が次のように明かす。
「コロナ禍では、これまで利用したことのなかった人たちが、実店舗に足を運ばなくなり、ネットスーパーをこぞって利用し始めたんです。そのうえ肉や野菜、卵、牛乳といった必要不可欠な生鮮食品がまとめて購入されるサービスになりました。生鮮食品は粗利率も高い。急激に売り上げや粗利率が伸びたことで、黒字化する事例がでてきました」
購入商品数が増えたことで顧客単価も急増。ネットスーパーの単価は、リアル店舗の約2倍以上となる約6000円に成長した。導入企業のなかには、店舗単位で黒字化を達成するケースも出始め、参入が相次いでいる。
とはいえ、現状は大手ECモールと比較すると、ネットスーパーの認知度は決して高くない。
そうしたなか、ネットスーパー拡大のカギを握るのは利用のきっかけづくりだという。とりわけ、大手ECモールにはないリアル店舗との連携に注目が集まっている。
店舗とネットの行き来を生み出せるか
「実は、普段400円の送料が0円になっても、利用者はそこまで劇的に増えるわけでもないんです。一方、リアル店舗のように、298円の卵を198円にすると、そのお買い得さが利用動機につながりやすい。ネットスーパーを利用しようと思わせる惹きつける商品や価格が大事です」特売商品の効果はリアル店舗同様に他の商品の購入も促進させ、自然と顧客単価も上がる。
現在、店舗出荷型を採用する企業では「利用者にいかに気持ちよくリアル店舗と併用してもらえるか」がコアの考え方になってきているという。
「例えば毎週月曜日がネットスーパーだけの特売なら毎週水曜日はリアル店舗の特売日に設定する。そうすれば店舗とネットスーパーを行き来するサイクルが作れるのではないでしょうか」
月曜日はお米やトイレットペーパーといった持ち運びに負担がかかる商品を生鮮食品とあわせ買いしてもらい、水曜日は店頭で選びたい野菜や鮮魚、お惣菜などを特売にする。こういった具合に、使い分けをすることでスーパーへのファンを獲得することができるのだ。
約3年、さまざまなネットスーパーを支えてきた10Xだが、矢本は「ポテンシャルは想像以上に大きい」と考える。当初想定されていた共働き世帯や要介護者といったターゲット以外にも、実際には一人暮らしの独身男性の利用回数が多いなど、幅広い層から利用されているのだ。
導入先企業にも伸び代がある。首都圏と近畿圏で約300店舗を展開する食品スーパーのライフでも、ネットスーパーを展開しているのはまだ一部店舗。小売業界に残された数少ない未開拓市場として、さらなる拡大が見込まれる。