経済・社会

2023.08.27 07:00

お互いの体を縛り付けた日米韓、定例化の幻想

2004年12月に当時の小泉純一郎首相と韓国の盧武鉉大統領が合意した、相互に年2回程度訪問するという「日韓シャトル外交」も、小泉首相の靖国神社参拝、李明博大統領の竹島上陸、朴槿恵政権による従軍慰安婦問題批判などが起きるたびに中断の憂き目に遭った。

また、三カ国は、安全保障上の危機が起きたときなどの取り組みの姿勢を示した「日本、米国及び韓国間で協議するとしたコミットメント」という文書を発表した。関係筋によれば、米国は当初、コミットメントではなく「義務」という言葉にこだわったという。韓国の慎重な姿勢により、トーンダウンしたようだが、例え、「義務」という言葉を入れることに成功していても、今回の合意は条約ではないため、法的な拘束力はない。

来秋の米大統領選でバイデン大統領が敗北すれば、米国の態度が再び変わることもありうる。トランプ前大統領の再登場ともなれば、なおさらだ。トランプ氏は様々な国際機関から脱退し、日韓には桁違いの金銭的負担を要求するばかりで同盟には全く関心を示さなかった。この約束もすぐに紙くずになるだろう。

韓国はもっと心配だ。尹錫悦大統領は8月15日の演説で「自由主義の韓国対共産主義の北朝鮮」という構図を強調し、北朝鮮を徹底的にこき下ろした。この演説は日米両国にとっては、非常に心地よい、韓国風の表現で言えば「サイダーのような演説」だった。でも、韓国内に民族融和や南北関係改善を唱える勢力が一定数存在することも否定できない事実だ。北朝鮮をこき下ろすことは、こうした韓国の政治的反対勢力を強く刺激し、韓国内の分断を深めることにつながる。尹大統領の任期は27年5月までだが、仮に現政権を支える保守勢力が敗北すれば、大きな揺り戻しが来るだろう。

ところで、こうした激変する状況の際の立ち回りに最も優れているのが米国だ。ソウルの米国大使館はどんな時代でも、野党勢力と接触する努力を欠かさない。政府・与党との関係構築に躍起になるばかりの日本大使館とは大きく異なる。将来、万が一、米韓両国の現政権勢力が退場して、政治環境が大きく変わったとしても、一番慌てないのは米国なのかもしれない。

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文=牧野愛博

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