映画

2023.08.26 20:00

気鋭の女性監督がスリリングに描く恋愛映画「ファルコン・レイク」

「まさに彼のいう通りだった。とても繊細でさりげない物語で、映画へのポテンシャルが大いにあることは明らかだった。でも私にとっての真の課題は、物語を自分のものにするために個人的な作品にすることだった」

こう語るシャルロット・ル・ボン監督だが、共同で脚本を執筆したフランソワ・ショケとともに原作を大胆に改編している。まず舞台をフランスのブルターニュの海辺から、カナダのケベック州の湖のほとりに移し、少年と少女のシチュエーションもかなり入れ替えている。

そして、前述のように作中に「死」のイメージを漂わせることで、まったく異なるラストシーンへと導き、ル・ボン監督の言葉を借りれば「物語に満足のいく新たなアイデンティティを与えることに成功」している。

原作では13歳の少年の視点から「性への目覚め」なども細やかに描かれているが、映画ではむしろ逆に16歳の少女の心のなかにわけ入りながら「生」と「死」を描き、独自の作品世界を展開している。

ヒロインであるクロエの心象風景とも受けとれる印象的なシーン(c)2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

そんな彼女の心象風景を映しているのが、深い森に包まれて水を湛える湖の場面だ。何度か登場する湖畔に立つ枯れ木のショットは、クロエの孤独さえ感じさせる。ル・ボン監督はクロエについて次のように語っている。

「彼女は、家族や友人といても自分の居場所がないと感じている。彼女が悲劇的な物語や幽霊に抱く強い関心は、彼女自身を孤立させるものであり、密かに感じている孤独を表現する1つの要素になっている」

そういう意味で言えば、「ファルコン・レイク」が単なる「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語ではないことは、この監督の言葉からも推し量られる。表向きは少年と少女のひと夏の物語でありながら、観た後に深く心に突き刺さるのは、クロエに込められた監督自身の強い思いに由来するのかもしれない。

ホラー映画のファンでもあるというシャルロット・ル・ボン監督、次回作にどんな作品を選ぶのか、楽しみではある。

 映画「ファルコン・レイク」は8月25日(金)より、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー(c)2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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