会場内でクロエを探すバスティアンだったが、彼女が親しげに男ともだちに身を任せて踊るのを見て、独り家路に着く。しかし眩い夏の光のなか、バスティアンとクロエは水上スキーやサイクリングを楽しみながら少しずつ距離を縮めていくのだった。
けっしてアクションやホラーの作品ではないのだが、監督のシャルロット・ル・ボンは「生」と「死」を注意深く作品に織り込みながら、ひと夏の少年と少女の出会いの物語を緻密に紡いでいく。そういう意味で「ファルコン・レイク」は、ただの「恋愛モノ」ではなく、作家性の強い、高いクオリティの作品となっている。
バスティアンとクロエはしだいに2人の距離を縮めていく(c)2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI
物語に新たなアイデンティティを
監督のシャルロット・ル・ボンは、1986年生まれでカナダの出身。現在はフランスを拠点として活動しているが、もともとは俳優として映画界にデビューした。2014年に公開された「イヴ・サンローラン」(ジャリル・レスペール監督)で第40回セザール賞の助演女優賞にノミネート。その後も「ザ・ウォーク」(ロバート・ゼメキス監督、2015年)や「フレッシュ」(ミミ・ケイヴ監督、2022年)など多数の話題作に出演する。
映画監督としては、2018年に脚本も手がけた短編「ジュディット・ホテル」でデビュー。「ファルコン・レイク」は初の長編監督作品になる。本作はすでに第75回カンヌ国際映画祭で上映されて人気を博したり、第58回シカゴ国際映画祭をはじめとして各地の映画祭で新人監督賞に選ばれたりしている。いわば期待を集める新進気鋭の女性監督だ。
彼女は「ファルコン・レイク」では共同で脚本も手がけている。原作はフランスの漫画にあたる”バンド・デシネ”の「年上のひと」(バスティアン・ヴィヴェス著)。友人のプロデューサーから「この作品は君にぴったりだと思うし、もし気に入ったら君の初長編映画として共同製作を手伝うよ」と言われ、本をプレゼントされたという。