確かに、Google I/Oは通常、グーグルのトップ幹部が派手に輝く場所というわけではない。ピチャイCEOは、エンジニアの中のエンジニアであり、彼は黙々と仕事をこなす。ピチャイは、Applied Materialsで素材エンジニアとして働いた後、マッキンゼー・アンド・カンパニーで経営コンサルタントを務め、2004年にグーグルに入社した。その後、Google Chrome、Chrome OS、Gmail、Googleマップの開発をマネジメントしてきた。
ピチャイは愛想は良いが生真面目で、彼の経営スタイルもその気質を反映している。しかし、AIに関する現在の話題には、それ以上のものが求められていた。人々の話題をさらったChatGPTが登場したことで、投資家たちは、グーグルが存亡の危機に直面していると考えていた。ピチャイは、そうした論調を変えなければならなかった。彼はAIを、人を驚かせるものに変える必要があったのだ。
幸いなことにグーグルには、ぐいと引っ張れる大きなレバーがあった。
2023年5月10日に開催されたGoogle I/Oでピチャイは、ChatGPTに対するグーグルの回答として、Bardの最新版を発表した。Bardは、Googleアシスタントが自然に進化したものだ。
Googleアシスタントは、2016年のGoogle I/Oで発表された、パーソナライズされたAIバーチャルアシスタントだ。Googleアシスタントがユーザーの代わりに電話をかけて予約してくれるサービス「Google Dupluex」も、すでに2018年のGoogle I/Oで発表されていた。
Googleアシスタントは、グーグルのすべてのスマートホーム製品、Androidベースのモバイルデバイス、Android Automotive搭載の自動車やトラックに搭載されている。さらにはChrome、検索、マップといった人気のGoogleアプリケーションを介して、iPhoneにも搭載されている。これは、数十億台のデバイスに相当する。こうしたアシスタントは、グーグルのAIエンジニアに何ができるかを披露するのに最適な手段だった。
Google I/O前日の5月9日、アルファベットの株価は107.34ドル(約1万5600円)で、将来利益の17.3倍、売上高の4.8倍で取引されていた(同社の粗利益率は55.5%、利益率は20.6%だった)。Google I/Oの後、同社株価は順調に上昇し、7月28日には133ドル(約1万8900円)を超えた。つまり、Google I/OでAIプロジェクトに関する社会の論調を書き換えるという同社の目標は、無事に成功したとえる。
(forbes.com 原文)