手と頭と心を使って仕上げる 人間=職人へ、敬意を込めて

ブルネロ・クチネリ氏が自身の服を語るとき、よく使うのが"礼節"という言葉だ。それは控えめな美しさが人々への敬意となり、自分だけでなく、周囲をも心地よくする服。そんな服を求め、まとう人は、おのずと人々から尊敬されるに違いない。

手と頭と心を使って仕上げる 人間=職人へ、敬意を込めて

ブルネロ・クチネリ氏が自身の服を語るとき、よく使うのが"礼節"という言葉だ。それは控えめな美しさが人々への敬意となり、自分だけでなく、周囲をも心地よくする服。そんな服を求め、まとう人は、おのずと人々から尊敬されるに違いない。

今年度のG7(主要7カ国首脳会議)議長国を務める日本では、広島県広島市で行われた首脳会談をはじめ、多くの閣僚会合が開かれる。こうした国際会議で近年、頻繁に議題となるのが経済的格差だ。資本主義経済の限界すら叫ばれる、そんなバランスを失った現代社会において、政治、経済の分野から注目されているのがブルネロ・クチネリ氏である。創業者であり、現会長兼クリエイティブディレクターとして、自身のブランド「ブルネロ クチネリ」を一代でグローバルファッションビジネスの中核にまで押し上げた同氏は、根強く残る職業差別をなくすことが経済的格差是正のカギと捉える。

「私にとって職人とは、たんにモノをつくる人ではありません。彼らは立派な芸術家です。その賢明な手から、唯一無二の素晴らしいモノが生まれます。そんな彼らに対し、私は尊敬と感謝の念を抱かずにはいられません。ですが、私たちは長い間、そうしたモノづくりの尊さを忘れてしまっていました。職人たちが手作業でモノをつくるのは、他の仕事に向かないからだという見方をされることもあるようですが、そのような考えは悔い改めなければなりません。そこで私たちは、拠点のソロメオ村に技能訓練校〈現代高度芸術工芸学校〉を設立。他に類を見ない、職人の希少な知識と技術、そして精神性を後世に伝えるべく努めています。そして職人の経済的尊厳のために、手作業による生産に携わるスタッフの報酬をデスクワークより若干高く設定しているのです。それもひとえに、“私の仕事は洋裁師です”“僕はニット編み職人”“私は石工をしています”と、若者たちが胸を張って、誇らしく、堂々と言えるようになってほしいからです」

誰も取りこぼさない
資本主義の理想を追求

自然豊かなイタリア中部の小村ソロメオの本社工場は、広々として採光性に富み、明るく快適な環境が整えられている。こうした経済的にも環境的にも配慮された職人たちは、その仕事において最大限のクリエイティビティを発揮しようと努め、芸術品のような高付加価値の逸品を生み出す。そして確かな審美眼をもったカスタマーが、その世界屈指の高品質な製品を求める。そんなポジティブな人々のつながりこそが、ブルネロクチネリ躍進の原動力であり、経済格差を解消する処方箋となるのだ。実際、同社は職人だけでなく、モンゴルのカシミア山羊の牧畜業者など、素材の生産者にも真っ当な報酬を約束。サプライチェーンにおける経済的格差の縮小に努めている。このような誰も取りこぼさない包摂的発想の源こそが、クチネリ氏が実践する人間性重視の人間主義的資本主義経営なのだ。

「労働者の尊厳を尊重することは人間の一大テーマであり、私にとっては特に大切な問題です。このテーマが大きく損なわれた根底には、“程度”“限度”、そして“調和”の喪失があるのではないでしょうか。私たちは利益と恵みとのあいだの程々の度合いをあらためて培わねばならず、また万物との調和の取れた関係を育むことも求められます。そうすることで、未来につながる人間性に応じたかたちで、万物に相応の価値を見出しながら、人間的な資本主義の理想を追求できるのです」

手と頭と心を使って仕上げる 人間=職人へ、敬意を込めて

ブルネロ・クチネリ氏が自身の服を語るとき、よく使うのが"礼節"という言葉だ。それは控えめな美しさが人々への敬意となり、自分だけでなく、周囲をも心地よくする服。そんな服を求め、まとう人は、おのずと人々から尊敬されるに違いない。

人生の師から学んだ
利益と恵みの調和

富める者はより富み、貧する者はより貧する、アンバランスな現代社会。それは資本主義の名の下に、限度なく富を求め続けた結果、いつの間にか歪んでしまった人間性そのものなのだ。そして人間主義的資本主義に基づき、職人によるモノづくりを軸とするブルネロクチネリの企業活動は、調和の取れた人間性の回復こそ、格差のない持続可能な資本主義経済のカギであることを我々に諭すのである。

「私にとって非常に重要な“原風景”は、田舎で過ごした幼少期。なかでも農業を営んでいた祖父が、収穫期の初めに採れた小麦を村(コミュニティー)に提供していたことが、温かい気持ちと尊敬の念をもって思い起こされます。その無償の行為から学んだのは、いかなる企業であれ、持続するためには利益と恵みの適正な調和を見出さねばならないということです。人間を搾取することなく、またあらゆる資源を丁寧に自覚をもって利用することが求められます。そもそも私たちが真の人間関係をもって生活していた時代、共有の精神や兄弟愛はごく自然なものであり、祖父のように自発的に実行されていたのですから。私の人生の貴重な“師”となっている、そんな祖父の行為を私は忘れたことがないのです」

 人類が築いた富や限りある資源を、奪い合うのではなく、程々に分け合って共有すること。サステナビリティが重要視され、シェアリングエコノミーといった経済モデルが注目される今日。職人の手から生まれたブルネロ クチネリの服は、そのやさしく暖かな着心地により、資本主義、そして人類の歩みが曲がり角に差し掛かっていることを気づかせてくれるのだ。

▼特集 
What is Brunello Cucinelli | Forbes JAPAN

Promoted by Brunello CucinelliDirection by AKIRA SHIMADA(Forbes JAPAN)Text by YASUHIRO TAKEISHI