英国の調査会社Juniper Researchによると、世界のチャットコマース市場は2021年の410億米ドル(約5.9兆円)から2025年には2900億米ドル(約42兆円)規模にまで成長すると予想されている。
日本国内でチャットコマース市場を牽引する「ZEALS(ジールス)」は、企業向けに、商品案内ができるAIチャットボットを提供している。例えば化粧品メーカーであれば、ユーザーの肌の悩みや普段購入する商品の傾向を選択形式の質問などでヒアリングし、おすすめの商品を提案。LINEとの連携が可能なうえ、一度友だちになると事後のプッシュ配信が可能なため、利用者の商品理解を深めることができ、ある企業ではコンバージョンレート(商品購入)が25%に上るケースもあるという。
すでに大企業を中心に450社以上が導入するほどに成長し、昨年9月には米国法人も設立。今年4月からは「生成AI」を活用したサービス提供も開始した。チャットコマースの顧客体験をさらに向上させようとしてる。
リターゲティング広告を代替
そもそもチャットコマースが伸びているのはなぜか。ジールス取締役COOの遠藤竜太は、「マーケティング業界とエンドユーザーの動向における2つの変化がある」と分析する。1つ目のマーケティング業界の変化は、大手プラットフォーマー各社が個人情報保護の背景からCookieの規制強化をしていることだ。
ウェブにおけるユーザーの行動や情報を収集・活用するCookie技術。その利用を制限する動きにより、大きな影響を受けるのが、リターゲティング広告だ。Cookieで収集した情報を活用して一度自社に訪れたことがあるユーザーに対して自社の広告を配信する“追跡”が難しくなっている。そして、チャットコマースはそのリターゲティング広告の代替手段として、急速に注目を浴びていると遠藤は言う。
「リターゲティング広告がウェブの行動履歴を広告に活用していた一方、チャットコマースはユーザーの同意を得たうえで、チャットを使った双方向性のあるコミュニケーションができます。チャットで相手が何に悩んでいるか、何が欲しいかをダイレクトにヒアリングでき、その内容をもとに購入を促せる。リターゲティング広告が落ち込むのに反比例するように、チャットコマースが一気に台頭したんです」
提供=ジールス
そして、チャットコマースの急成長における2つ目の要因である、エンドユーザーの動向の変化は、コロナ禍の影響が大きいという。以前は、消費者も店員に相談することで自身の欲しいものが明確になっていたが、コロナ禍で店員の接客は少なくなった。
「それでも消費者の相談ニーズはなくならなかったため、それに応えたチャットコマースが爆発的に広がり、定着していきました」