テレビとYouTubeの交差点に立つ。放送作家・白武ときおの「天職との出会い」

この時、なぜ新しい領域に飛び込めたのか──。

仕事はたくさんあり収入もあがったんですが、キャリアやポジションがあがらない。言うことを聞くだけの仕事や、自分が観ないような番組のお仕事もたくさんありました。

テレビ業界では、若手作家の主な業務はリサーチ。頑張って食らいついている同世代も多くいましたが、僕はあまりやりたくないし、得意でもありませんでした。とはいえ、何十年もやっている先輩には敵わない。このままではいつまでたってもランクが上がらないなと、悶々とした想いを抱えていたんです。

そんな中、少しずつお金よりも自分がやりたいこと、テンションがあがることを優先しようというモードに入っていきました。

そしてもうひとつの理由が、他の人がやっていない領域だから。

当時影響を受けたのが、秋元康さんと鈴木おさむさんの『天職』(朝日新聞出版)という本。そこで秋元さんが“川のボート理論”を紹介していました。「みんなと一緒に一生懸命ボートを漕いでいても、先輩を追い抜くことは難しい。でも、1本川をずらして“作詞家”という川で結果を出してから、元々いた“放送作家”の川に戻ると一気に順位を上げることができた」というエピソードです。

その理論の通りに、媒体にこだわらず様々な場所にボートを浮かべることにしました。テレビやYouTube、映画や広告制作にも潜り込む。いろんな業界の新しい作り方を越境して学んでいくというスタイルは性に合っていました。

少し前までは、テレビ業界の人がYouTubeを下に見ていた時期もあったように思います。この2~3年で様相は様変わりして、ネット広告費がテレビ広告費を上回るようになったり、動画配信サービスに視聴者の時間が奪われるようになったりと、60年続いてきたテレビのビジネスモデルを変えざるを得ない状況になっていきました。そんな時に、テレビとYouTubeの交差点に立っている珍しい奴ということで、呼んでもらえる機会が増えました。

夢を実現するための「推進力」を見つける

これから夢を掴んでいくU30世代の読者の方々に……何かアドバイスできるような存在ではないんですが、よく「放送作家になるにはどうしたらいいですか?」と聞かれます。先輩が言っていてベストアンサーだと思ったのが「放送作家になる方法を思いつけるのが放送作家だ」という言葉。

まずは「こうなったら最高」と夢や光景を思い描く。そして、それを実現させるための方法、推進力となるモノや仲間を見つけられるか。

「この人みたいになりたい」というロールモデルを見つけるのでもいいし、無目的にひたすら自分のテンションが上がることをやり続けていってもいいと思います。そうしているうちに自然と階段を上って、天職に到達しているケースもあると思います。

僕は、放送作家になりたいと思ったときから、ロールモデルがたくさんいました。例えば、小山薫堂さんや糸井重里さん。小山さんは「料理の鉄人」「おくりびと」「くまモン」、糸井さんはコピーもゲームも手帳もつくって……と、いろんな分野で人を楽しませる傑作を出していて憧れます。

自分が無理なく前向きにやり続けることができて、かつ自分にとって結果が出やすい夢が見つけられると楽しい日々を送れるはず。向き不向きがあるので自己実現を追い求めずに、楽しくダラダラ暮らすのもいいと思います。自分のテンションに寄り添って。


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文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 撮影=小田駿一

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