30U30

2023.08.21 17:00

トモ・コイズミが20年歩き続けた「憧れの人」に会うまでの道

僕にとってファッションは、見ているだけで満たされる、それだけでも価値があるもの。その実感は、14歳の頃からずっと変わりません。だから市場に出回らなくても、美術館に展示される機会に恵まれたように、誰かの目に留まり、それに共感してくれる人がいればいいと思うんです。
ニューヨークで行ったファッションショーのラストルック。その後、メトロポリタン美術館に所蔵された(Getty Images)

ニューヨークで行ったファッションショーのラストルック。その後、メトロポリタン美術館に所蔵された(Getty Images)


一番大切なのは、自分の名前を冠したブランドを、長く続けていくこと。ファッション業界を見ていると、ライジングスターのごとく脚光を浴びるけれど、すぐにいなくなってしまうデザイナーも多くいます。やはり周りの要望に応え続けていたら、どこかで折れてしまうのかもしれません。

現在は、他社ブランドとのコラボレーション、衣装のオーダーメイドやカスタムメイドドレスをメインに展開しています。数を売り、より儲けるということには、今もあまり興味がありません。一般的に着やすいもの、売れやすいものを作るためには、自分のデザインをトーンダウンする必要があります。でもそれは、僕が妥協してまでやることではないのかなと。

たくさん作って在庫が出てしまうよりも、オーダーで一点一点心を込めて作る。春夏/秋冬と年2回発表することが一般的なコレクションも、年1回にして、密度の高い良いものを見せる。コンパクトな体制で、自分のやることを自分でコントロールする決定権を持つ。僕にとってはそれが一番ストレスがなく一番理想の状態だと思っています。

モチベーションの維持と、新たな表現への挑戦

モチベーションは、「自分が尊敬する人と一緒に仕事をしたい」、「かっこいいものを作っている人たちに認められたい」というところにあります。規模の大きい仕事や売上アップも魅力的ですが、やはり感覚が合わないこともある。そこに無理やり迎合していくことでエッジさを失うのはもったいないです。自分はどこに照準を合わせていくのかを一度立ち止まって考えることが大切だと思います。

この間パリに行ったとき、憧れのジョン・ガリアーノと20年越しの対面を果たしました。2021年に米『VOGUE』のプロジェクトを一緒にやりましたが、そのときはオンラインだったんです。世界で一番尊敬するデザイナーに会って、1時間お茶して、褒めてもらえて。それだけで達成感があり、新しい表現の方向性を探りたいという意欲が湧いてきました。

実は1年ほど前から、コンテンポラリーアーティストとしての活動を始めたんです。これまで作ってきたドレスも、アート的な扱いができるものであると自負していますし、絵も描いています。今年の12月には個展を開催する予定で、2024年はアートに注力することも考えています。美しいものを作り上げるという点ではファッションの領域と共通しますし、一方で、考え方や業界の仕組みは全く違う。相互に良い影響があることを期待しています。

2023年2月には、23/24年秋冬ミラノコレクションでショーを開催した(Getty Images)

2023年2月には、23/24年秋冬ミラノコレクションでショーを開催した(Getty Images)



ビジネス、アート、スポーツからサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちをエンカレッジするアワード「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」。今年の受賞者は、特設サイトで8月24日12時に発表する。

文=菊地七海 編集=鈴木奈央

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事