その中核的な主張は「あなたらしさが美しさ」。「すべての女性が、自分の美しさに気づくきっかけをつくること」を使命としている。その姿勢はいわば“アンチ・メイク”とでも言えるもので、「Doveの製品で素の自分の美しさに磨きをかけよう!」と商品メッセージにも素直に繋がっている。
そのDoveが2023年3月に、ソーシャルメディア上の“盛りフィルター”(加工フィルター)に異議を唱えるキャンペーンを行った。歪んだ美の基準を押し付けてくる加工フィルターには背を向け、反対の意志を表明しよう、という「#Turn Your Back」だ。
Dove - Turn Your Back (case study) Media Grand Prix at the Cannes Lions 2023
この事例は、今年6月にフランスで開催されたカンヌライオンズ2023において、メディア部門グランプリ等を受賞した。カンヌライオンズとは、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つアワードである。
「#Turn Your Back」の主要な対象はTikTok上で作動する「Bold Glamour」というフィルターで、生成AIの活用により女性の素顔がいわゆる“美人顔”に劇的に変換される。
従来のこの手のフィルターでは、手で顔を触ったり被写体が動いたりすると加工画像がブレたりしたのだが、このフィルターにはそういうことがない。そのため「有害な美の基準」を蔓延させやすいものとなっていた。
Doveは、屋外広告・新聞広告・デジタル広告などを使用し、加えて68人に及ぶインフルエンサーも活用して、「#Turn Your Back」キャンペーンを展開。主要なマーケットである米国、英国、フランス、イタリア、スペイン、ブラジル、南アフリカの各国で実施した。加工アプリが発動できないよう、背中を向けて画像を投稿するように呼び掛けた。
もちろん、この「背中を向ける」行為には、こうした「歪んだ美の基準の押し付け」に対して、反対の意志表示をする、という意味合いも込められている。