ここで講師を務める日本人がいます。それが、医療機器業界や政府自治体、スタートアップのアドバイザー、NPOの評議委員など幅広い活躍をしている池野文昭先生です。
池野先生は、22年間、スタンフォード医学部の循環器内科のラボ(研究室)に所属し、医療系スタートアップとの研究開発に携わっています。並行して、医療テックの起業家育成講座「バイオデザイン」においてさまざまなイノベーションを起こす人材の育成をされきました。その教育の裏側について、池野先生に聞きました。
「バイオデザイン」日本への導入
──在籍期間は20年以上です。どのようなことをされてきたのでしょうか。私が所属するラボでは、200社を超える心臓疾患系の医療系スタートアップの研究開発を行ってきました。このラボは、世界最大の医療機器スタートアップの集積地シリコンバレーの中心に存在します。これまで、心臓疾患系の企業を中心に、多くの成功までのプロセスと、その10倍以上の失敗例を見てきました。
そして、その知見やネットワークを生かして、日本の医療機器スタートアップ支援プロジェクトを立ち上げてきました。その経験を通じて、日本には、医療業界において起業家精神を育成する教育システムがないことに気づき、スタンフォードの教育プログラムを輸出したらどうかと考えたわけです。
そして着手したのが「ジャパンバイオデザイン」の立ち上げです。バイオデザインは、2001年に発足した、デザイン思考をベースにして医療機器のイノベーションを醸成するプログラムです。私は創設者のポール・ヨック教授のラボで働いていた縁もあり、2015年にこのバイオデザインを日本へ導入しました。
また、スタンフォード大学の創薬プログラム「Stanford SPARK」に携わり、アジア人のヘルスケア関連の研究や教育をおこなうセンターである「スタンフォードCARE」も有志で立ち上げました。
10名前後を選抜し「思考プロセス」を伝授
──2014年からスタンフォード大学のバイオデザインで教鞭をとっていますが、どのようなことを教えているのでしょうか。「思考のプロセス」です。研究者は、自分の研究している技術ありきで物事を考えがちですが、我々はまずニーズを考えます。プロダクトアウトではなく「マーケットイン」です。
民生品だと当たり前の考え方ですが、難しいのは、それを医療の規制や安全性を踏まえ、進めていく点です。また、開発者が、ユーザーになることが少ないのも民生品との決定的な違いです。また、医療機器の場合、人命に関わるので、安易な施行は許されませんし、医師や看護師以外にもたくさんの関係者がいます。誰が、何を必要としているかという「本当のニーズ」の特定は困難です。