キプロスでは8日、新型コロナ治療薬のモルヌピラビル(販売名ラゲブリオ)の猫への投与が始まった。この日はくしくも、「世界猫の日」だった。
同国では1月から、「FCoV-23」と呼ばれる猫コロナウイルスが流行している。新型コロナウイルスとは異なる種類で、ヒトには感染しない。猫コロナウイルス自体はありふれたウイルスで、排泄物を通じて猫の間で広がり、感染しても無症状か、下痢などの軽い症状にとどまることが多い。
ただし、変異型の猫コロナウイルスは、猫伝染性腹膜炎(FIP)を引き起こす。FIPは、治療しなければほぼ100%死に至る病気だ。キプロスで起きている猫コロナウイルス流行は、毒性の強い変異株が引き起こしているとみられている。
モルヌピラビルを投与することで、FIPを発症した猫の大半が回復することが、研究から示されている。キプロス政府の獣医学関連機関トップは英紙ガーディアンに対し、今後数週間でモルヌピラビル2000箱、計8万錠を各地の動物病院に配布すると語った。
キプロス保健省の高官は、ヒト用の備蓄を猫に使用しても、新たな新型コロナウイルス流行に対応する能力は維持できると述べている。
今回の流行で死んだ猫の正確な数は分かっていない。というのも、キプロスでは大量の野良猫が暮らしており、国内に存在する猫の数自体がはっきりしないためだ。猫の数は推定100万匹以上で、同国の人口を上回るとみられている。
キプロスの野良猫たち(shutterstock.com)
同国の動物保護団体PAWSなどは、1月以降にペットと野良猫を含め約30万匹が死んだと推定している。ただガーディアン紙によると、これは20~30%という推定致死率に基づいたもので、その信ぴょう性ははっきりしない。同国の獣医師は同紙に対し、流行の深刻さは認めつつも、30万匹という数字は疑わしく、1~6月に死んだ猫の数は推定8000匹との見解を示している。
キプロスでの猫コロナウイルス変異株拡大を受け、他国でも同様の流行が起きる可能性が懸念されている。ガーディアン紙によると、レバノン、トルコ、イスラエルなど野良猫が多い国ではすでに、獣医師たちがFIPの症例増加を報告している。
(forbes.com 原文)