経営・戦略

2023.08.22 13:30

西陣織の老舗から高級テキスタイルメーカーへ、世界を目指し進化する「細尾」

安井克至
12カ月にわたったこの開発が大きなターニングポイントとなり、細尾は会社として、前よりも自信をもって国際市場を目指すようになりました。この経験は、着物や織物に関する当社の考え方も変えました。それらはもはや日本の伝統品にとどまらず、他の領域でも高く評価され得るテキスタイルになったのです。その一例が、アーティストのテレジータ・フェルナンデスとのコラボレーションから生まれた革新的なテクニックで、これは「Nishijin Sky」というアート作品につながりました。

デザイナー三原康裕は、日本の芸術と工芸への強いこだわりを持ち続けている。2012年シーズン、細尾の西陣織の生地でつくられたこの迷彩柄には、繊細でほとんど見えない刺繍や、雲を思わせる日本の伝統的な図案が使われている。写真提供:株式会社 細尾デザイナー三原康裕は、日本の芸術と工芸への強いこだわりを持ち続けている。2012年シーズン、細尾の西陣織の生地でつくられたこの迷彩柄には、繊細でほとんど見えない刺繍や、雲を思わせる日本の伝統的な図案が使われている(写真提供:細尾)

──日本の伝統産業は、顧客の需要減少や職人の高齢化に苦しんでいますが、細尾は12世代にわたって栄えているファミリー企業です。細尾の成功の秘訣はなんでしょうか? 例えば、あなたの曽祖父は、より多くの顧客が利用しやすいように事業を拡大しましたし、あなた自身も、家具やカーテン、クッション、スリッパ、ポーチなどのライフスタイル用品の提供に取り組んでいますね。

30年ほど前から、日本国内の着物市場が急激に縮小してきたことは周知のとおりですが、当社は使命感を原動力として、いまも美の追求を続けています。曽祖父の時代に、着物と帯をつくる京都の一製造業者の枠を越え、日本全国で着物を提案するキュレーターのような存在になったときから、細尾の成功においては、発想の転換が重要な役割を果たしてきました。伝統を守る必要はありますが、それとともに、着物やビジネスの流儀に関する考え方を変える必要もあります。

先ほどお話ししたように、細尾が生み出す製品と体験は、お客さまが特定のニーズや価値に関する課題を乗り越えるのを助けています。それが、ひるがえって私たちの考え方を変え、お客さまの暮らしにさらに適応し、意味のある存在でありつづけるのを助けてくれます。そんなふうにして、我が社の伝統を守るとともに、次世代に向けて日本の伝統工芸文化に価値をもたらしているのです。

──2019年9月に京都でフラッグシップストアをオープンさせたのはどうしてですか?

あのフラッグシップストアは、着物だけでなく、日本の伝統工芸を学び、体験し、価値を知るためのハブとなる場所です。フラッグシップストアを通じて着物や染色、製織の文化を広めるための土台となるように設計されており、そのためのギャラリースペースもあります。

細尾は昔から、職人芸によって人々の暮らしを支えるという活動理念を掲げています。フラッグシップストアの建築は、西陣織の伝統に敬意を表したものです。これまでに例のないかたちでさまざまな熟練職人たちをつなぎ、新たな価値を創出することを目的としています。

forbes.com 原文

翻訳=梅田智世/ガリレオ

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