薄くエレガントなケースに複雑な機構を閉じ込め、現代的かつ工芸的にも優れたエルメスらしい自信作。
薄型ケース特有のシャープな外観に、一部に切り欠けを設けたタイポグラフィが軽快な印象を与える。取材時にローラン・ドルデの腕にあった「スリム ドゥ エルメス パーペチュアル・カレンダー」は、彼いわく「伝統的な職人技術と現代的なクリエイティビティとが融合した、エルメスらしい一本」だ。
テキスタイルやレザーを担当し、今年3月、スイス・ビエンヌに本社とアトリエを置くエルメスの時計部門ラ・モントル・エルメス社CEOに就任。「時計に関しては勉強中」と前置きしながら「最高の技術をもって時間を惜しまずじっくりと制作に取り組み、豊かな創造性によって独創的な世界観を与える。エルメスのものくりの精神や姿勢は、時計でもレザーでもスカーフでも同じです」。
彼が身に着けるこのモデルは、ベースとなる薄型の自動巻きムーブメントはエルメスが株主に名を連ねるヴォーシェ社製で、永久カレンダー+2タイムゾーンを叶える厚さわずか1.4mmという超薄型モジュールは、アジェノー社が手がけた。どちらも技術力はスイス時計業界屈指。そしてリズミカルでモダンなタイポグラフィは、「エルメスの素晴らしき戦友」だとドルデ氏が称賛するフランス人グラフィックデザイナー、フィリップ・アペロアの手による。
「これほどの薄さで複雑な機構を実現できたことは、私自身が驚嘆したほど。さらにデザイン的に美しいことはもちろん、ケースもダイヤルも職人技術によって工芸的にも優れている。エルメスらしい美しい作品が出来上がった、と自負しています」
スリム ドゥ エルメスは、このほかシンプルなスモールセコンド仕様や女性用のジュエリーウォッチなど、多様なモデルをラインナップする。
「時計市場で生き残っていくには、常に“特別な存在”である必要があります。このコレクションに限らず、ムーブメントでも外装でも、技術の研鑽や新たな開発に取り組み、それをエレガントでファンタジーのある表現に落とし込んでいく。エルメスらしい真のものづくりの追求を時計自体で証明すれば、市場での評価は自ずとついてくるでしょう」
課題はまだまだあると言いながら「エルメスは、今後も時計市場に新風を吹き込みます」と胸を張る。
「エルメスのレザー製品は、お客様が誇りをもって語れる価値をもっています。時計もその本質を極め、5年後にはレザー製品と同じように語ってもらえることを目指します」