生体データと引き換えに暗号資産を配る「Worldcoin」が危険な理由

Robert Way / Shutterstock.com

話題の生成AI、ChatGPTの開発元のOpenAIのサム・アルトマンCEOが立ち上げた、暗号資産「Worldcoin(ワールドコイン)」のプロジェクトが物議を醸している。

このプロジェクトは、眼球のデジタルスキャンに応じた人々に約60ドル相当の暗号資産「ワールドコイン(WLD)」を与えている。さらに、ネットのサービスにアクセスした主体が、人工知能(AI)ではなく、人間であることを証明するために使用される「ワールドID」を付与している

しかし、民間組織であるワールドコインが、人間の虹彩という生体データの世界規模のデータベースを構築することは、専門家たちの主要な懸念になっている。発展途上国の貧しいコミュニティで始まったこのプロジェクトは、米国ではまだ始まっておらず、ケニアや英国、ドイツでは規制の見直しに直面している。

ワールドコインによると、すでに34カ国の200万人以上がWorld ID(ワールドID)にサインアップしており、今年中にOrb(オーブ)と呼ばれるスキャン装置を世界1500台に増やして普及を促進する予定だという。

ワールドコインの公式アプリは、7月末からの1週間で、ケニアで最もダウンロードされたアプリとなった。その普及の原動力の1つは、ポップスターのカグウェ・ムンガイを含む地元のインフルエンサーたちによるプロモーションだ。

ケニアの首都ナイロビにある巨大なオーブデバイスの横に立つムンガイをフィーチャーしたインスタグラムの動画には「私といっしょにワールドコインにサインアップしよう」という文言が添えられている。「私はサインアップして、虹彩をスキャンしてもらった」

ケニア人に提供される60ドルは、現地の平均月収のほぼ半分に相当する。東アフリカで最大規模の経済大国とされるケニアの人口の約3分の1が貧困にあえぎ、今年は何度も死者を出す抗議デモが起きている。

ケニア当局は8月2日、プロジェクトの「信憑性」と「合法性」を評価するため、ワールドコインの活動を一時停止させると発表した。しかし、ワールドコインはフォーブスに宛てた声明の中で、ケニアにおけるワールドIDの需要は「圧倒的」であり、一時停止は「慎重を期し、申請者の数を抑制するための努力の結果」だと述べた。
次ページ > 投資家からも懸念の声

編集=上田裕資

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事