アイデンティティの変化を受け入れる
喪失を経験した後に、生きる目的や新たなアイデンティティを見いだそうとすることは、困難であると同時に変化をともなう。愛する人を失うと、必然的に、自分という人間の核が作り変えられる。悲しみは、辛く乗り越えがたいものに感じるかもしれないが、そこには、自己発見と人間的成長という、変容をもたらす力も秘められている。
愛する人を失った後に、パワフルな自己変容を経験したという16人を分析した研究では、それがポジティブな変化であることを強く裏づける結果が出た。被験者たちは永続的な変容の感覚、物質主義からの離脱、死に対する視点の深化そして内なる幸福感の増大を得たと回答している。
精神的な動揺が自己変容につながるプロセスには、以下のような要因が関係していると考えられる。
1. 愛する人との死別は、人生のはかなさと向き合い、自らの優先順位や価値観を見直すよう促すことで、自己変容の触媒となる
2. 死別の悲しみという激しい感情的経験は、感情を受け入れ昇華するプロセスや、レジリエンス(回復力)の強化につながる
3. 死を悲しみ悼むことは、自己を省みるきっかけとなり、自分自身に対するより深い理解と、願望や価値観の再評価を促す
4. 死別という心的外傷の後にも、成長は起こり得る。人生に対する認識や感謝の深まり、人間関係の強化、自己の成長といったポジティブな変化につながる可能性がある
死別の悲しみを経験し、喪失を悼む過程において、新たな「人生の目的」を見いだし、人生のかけがえのない瞬間に対する認識や感謝を深め、自己のアイデンティティや内なる強さを、より意識するようになることがある。こうした変容のプロセスを受け入れることが、癒しと自己発見の旅につながるかもしれない。