定員40名のところ、実に233名が説明会に参加した同校の開校除幕式で登壇したのが、京都大学総合博物館准教授 塩瀬隆之氏だった。同スピーチは実に大きな話題となった。
同校のアドバイザーとして現在も関わりを続ける塩瀬氏が、開校後2年余りの6月、草潤中学校を訪れ、同校に在籍する生徒たち、その保護者、教職員のそれぞれにレクチャーと座談会形式での相談会を行った。
とくに4万部超の共著『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(安斎勇樹氏との共著、学芸出版社刊)もある塩瀬氏が、保護者や教職員ら生徒たちを見守る大人たちとの対話のなかで、何を語ったのか、以下一部編集の上、紹介する。
関連記事:ありのままの君を待ってくれる不登校特例中で京大准教授が生徒たちに話したこと
理想は『バーバパパのがっこう』だった
草潤中学校開校の準備をされていた早川三根夫前岐阜市教育長から、不登校になったから仕方なく行くと思われる学校にはしたくない、極端に言えばわざわざ不登校になってでも行きたいって言われるくらい理想的な学校にしたいが、どうすればよいかとご相談いただきました。そのときにイメージの共有として、即答したのが「バーバパパのがっこう」でした。
『バーバパパのがっこう』はフランスで出版された絵本です。子どもたちが教室のなかで落ち着いて授業が受けられないのを見かねた市長が警察官を動員までして学校にしばりつけようとするところから物語はスタートします。
見るに見かねたバーバファミリーが、子どもたちを森に連れていって、子どもだちの好奇心をのばす学校を提案します。
個性豊かなバーバファミリーは、お絵描きが好きな生徒、体を動かすのが好きな生徒、メカいじりが好きな生徒などなど、それぞれの好奇心を満たすようなサポートが得意で、その生徒たちの関心が高まったところに最初の学校にいた先生が戻ってきて教えると、好奇心と学びたいことが結びついてみるみる吸収していく、という新しい学校の形を示唆する絵本だったのです。
これがこの草潤中学校が手本とした学校です。
その理想の学校をそのまま、草潤中学で実現しましょう、と早川教育長(当時)にご提案させていただいたのです。
そして、その学校の実現のために、教育行政官の方と中学生活を間近で振り返られる高校生とデザイナーさんの3つの異なる知見をあわせて「理想的な学校をどうやって作るか」を考えた。1番最初に出てきたアイデアは、まずは「不登校児」という言い方自体をやめよう、「学校に行かないという宣言をした子たち」なんだから、ということでした。
しかし、不登校特例校の制度を活かした学校づくりをするわけなので、それでは教育行政官の方々が難色を示す。それは当然なので、あくまでもそのような態度で挑むということは忘れないようにしようと決意を新たにした。