コロナパンデミックを経て、パーティーや会食などの特別なシーンのみならず、より多くの人が日常生活を彩るアイテムとしてシャンパーニュを楽しむようになったという報道もあり、ますます普及に拍車がかかっているようだ。
今年公開された、2022年度におけるシャンパーニュの出荷量は、フランス国内と輸出を合わせ3億2550万本。2021年より1.5%、コロナパンデミック前の2019年より9.6%増加しており、その勢いはとどまるところを知らない。日本向けの輸出にいたっては前年に比べ数量・金額ともに20%以上増加し、過去最高を記録している。
ワインに馴染みがなくとも「シャンパーニュ」や「シャンパン」は誰もが知るワードとなっているが、現在の抜群の知名度を確立するまでには、長年にわたり様々な戦略がなされてきた。それらは様々な商品または産地の価値を高めていくためのモデルケースとしても注目されている。
今回はシャンパーニュが世界にその名を知らしめるために業界が行ってきたアプローチを改めて振り返り、さらにはそこから垣間見られるそのブランディング術を紐解いていきたい。
シャンパーニュの歴史
まずは、シャンパーニュの歴史とその発展の過程を辿ってみたい。シャンパーニュ地方ではもともと泡立つワインが造られていたわけではなく、自然界の神秘と人々の功績により発泡性ワインが生まれ、磨かれてきた。かつてのフランス・シャンパーニュ地方はアルコール発酵中のマスト(ワインとなる前のブドウ果汁)が寒さのために発酵を停止してしまうことがあったが、17世紀に英国の業者が樽で輸入したシャンパ―ニュ産ワインを瓶詰めしたところ、春に発泡が再開し、泡が出る白ワインができたという。この偶然の産物こそが、シャンパーニュ地方の原料ブドウで造られた発泡性ワインの始まりと言われている。
この泡の虜になったのが、フランスやイギリスの貴族たち。彼らの嗜好に応えるべく、17~19世紀にかけて発泡技術のイノベーションが進められていった。
その第一人者として最も著名なのが、シャンパーニュの品質向上のために様々な研究を重ね、「シャンパーニュ造りの父」と呼ばれたオーヴィレール修道院の僧侶ドン・ピエール・ペリニヨンである。その他多くの生産者や科学者の努力により、ワイン自体の醸造方法はもちろん、ボトルや栓に至るまで幾度となく改善が重ねられてきた。