コメディー映画の「バービー」と「原爆の父」を描いたシリアスな「オッペンハイマー」。全く共通点がないように見える映画が、なぜ結びついたのか。2つの映画は同じ時期に封切られ、どちらも大ヒットを記録したことが、ファンの注目を浴びる契機になった、という指摘があちらこちらでみられた。
米国の知人は「映画オッペンハイマーは、クリストファー・ノーラン監督も、ビジュアル・エフェクツも評価が素晴らしい。バービーは単なるコメディーではなくて、女性の社会での役割という問いかけもあるので、女性以外のファンも映画館に足を運んでいる。バービーもオッペンハイマーも米国人ならみんな知っているアイテムだから、自然と両方が話題になったのではないか」と語る。
防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長の見立ては少し違う。高橋氏は「バービーと原爆のいずれもが、米国の白人社会にとって、米国が最も豊で強かった時代を象徴するアイコンとしての共通点があるのではないでしょうか」と語る。米国が冷戦に勝利し、唯一の超大国として世界に君臨したのは1990年代から2000年代くらいまでの期間ではないのか。高橋氏は「米国白人社会にとって、ベトナム戦争が社会に傷跡を残す以前の、分厚い中間層が豊かな生活を享受できた1960年代こそが理想的な時代であったとの意識は未だに残っています。バービー人形は、1960年代の『幸せな家庭』に置いてあったという意味で、当時の『強く豊かなアメリカ』のアイコンといえるものです」と指摘する。白人を中心とする米国人たちが、無意識に自分たちの「昔、良かった時代」を二つの映画から感じ取り、「バーベンハイマー」として結びつけたのではないか、という仮説だ。