経済・社会

2023.08.12 11:00

批判浴びたバーベンハイマー なぜ、米国人は二つの映画を関連づけたのか

バービー人形が発売されたのは1959年2月。色々な着せ替えができるファッショナブルなスタイルが大評判になった。高橋氏は、金髪に青い目だったオリジナルのバービー人形について「幸せな白人家庭を感じさせる要素の一つです」と語る。

米国が1945年7月、世界に先駆けて開発に成功した原爆も「米国の最先端の科学技術を示す存在」(高橋氏)だった。「トルーマン・ミュージアムでみつけた小さな折り鶴 」で書いたように、米国人が被爆者を哀悼する気持ちを持っていないわけではない。トルーマン・ミュージアム(ミズーリ州)には、原爆投下を謝罪する言葉はなかったが、原爆投下後の広島の状況を詳しく紹介していた。2歳のとき、広島で被爆した後、原爆症によって12歳で亡くなった佐々木禎子さんが病床で折った鶴を、米国の地元の人々が折った鶴と一緒に展示してもいた。

高橋氏は「米国人のなかでは、世界をリードした最新の科学技術としての原爆を誇らしく思う気持ちと、被爆者を哀悼する気持ちは十分両立するのです」と話す。同時に「もちろん、それを受け入れられないという声を上げることも重要です。それが不快であれば、変に忖度するべきではありません。日本側の率直な反応も良かったのではないでしょうか」とも語る。

米国は「世界唯一の超大国」の座から滑り落ち、中国に激しく追い上げられている。米国を中心とした自由主義陣営も、中ロ両国を中心とした権威主義陣営、新興国を中心にしたグローバルサウス諸国との競争のなかで、主導権を握るまでには至っていない。米国内では、10年前には総人口の6割超を占めていた白人の割合が、2060年代には過半数を割り込むと予想されている。

「バーベンハイマー」は、自信を失いかけた米国、特に白人層を元気にしてくれる映画だったのかもしれない。バービーをキノコ雲のような髪形にしたSNSでの「悪のり」も、余裕がなくなって周囲が見えなくなっている人々の心象風景を現しているのかもしれない。

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文=牧野愛博

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