展覧会名と同じ、「FuturLiberty」という新しいコレクションを記念したものですが、その内容はリバティそのものの歴史、リバティとイタリアの関係、アートヒストリーとビジネスヒストリーの重なり合いなど多岐にわたり、多角的な視点を提供してくれます。かなり出色のイベントで、殊に歴史の捉え方に示唆が多いです。
リバティは、1875年、アーサー・ラセンビィ・リバティという創業者がロンドンに開店。当初は中国、インド、日本からの色彩豊かなシルクを扱っていましたが、1880年代になると産業革命による質の低い大量生産品の流通に対抗した英国のアーツ・アンド・クラフツ運動で作られたさまざまな装飾品を扱うようになります。パリ、ニューヨーク、ロンドンにショールームを構え、“独自スタイル”の輸出に成功します。
そして、1世紀半近く経た今においても“独自スタイル”、即ち、花や植物など自然のモチーフを取り入れた柄の生地が「リバティと言えば……」の代表的イメージとして根付いています。
ところで、イタリアには「リバティ・スタイル」と呼ばれる建築が多くあります。例えば、外壁に次のような装飾が施されているのに気がつきます。
アーツ・アンド・クラフツを起源に19世紀後半から20世紀はじめにかけてフランスを中心に広まったアール・ヌーヴォーと呼ばれた様式が、実はイタリアでは「リバティ様式」(あるいは花模様を意味する「フロレアーレ様式」)という名で親しまれているのです。
しかし、英国とイタリアの関係はこれにとどまらず、20世紀初頭のアートヒストリーが深く交差します。
20世紀はじめ、イタリアには産業革命を背景とした「未来派」という運動がおこります。未来派とは、新しいテクノロジーによって変わりゆく社会を肯定的にとらえ、速度、ダイナミックな動き、猥雑さなどを表現していきます。1909年、詩人のフィリッポ・トンマーゾ・マリネッティにより『未来派宣言』がなされ、美術、建築、演劇、音楽、デザインなど各方面から表現者から賛同を得ます。