すべての対象データに関する平均値(mean、データの合計値をデータ数で割った値)と中央値(median、データを数値順に並べた時に真ん中の順位に位置する値)を割り出した際に、全体のグラフがベル・カーブ(鐘形曲線)を描く「正規」分布の場合は、平均値は中央値と等しくなる。そして、この2つの値の差が開くほど、データがどちらかの方向に偏っていることになる。
米国勢調査局の集計による所得データの中央値と平均値を見てみると、かつてはこの2つの値がかなり近い値だったこと、そして今では大きな開きが生じていることがわかる。まずは一例として、全人種の世帯所得の中央値と平均値について、時間の経過にともなう変化を検証してみよう。
1970年の時点で、所得の平均値は中央値を14.5%上回っていた。国勢調査局の統計では、国民の所得を9つのカテゴリーに分けている。すなわち1万5000ドル未満、1万5000~2万4999ドル、2万5000~3万4999ドル、3万5000~4万9999ドル、5万~7万4999ドル、7万5000~9万9999ドル、10万~14万9999ドル、15万~19万9999ドル、20万ドル以上の9段階だ。
1970年当時は、そのうち5万~7万4999ドルのカテゴリーに、全世帯の23.5%が属していた。そして、この1段階下のカテゴリーが14.5%、1段階上が14.9%を占めていた。最も所得の低いカテゴリーは全体の12.4%と、正規分布で予測される値よりかなり多く、逆に最も高いカテゴリーは全体の1.7%だった。
しかし2021年までに、状況は激変した。5万~7万4999ドルという真ん中のカテゴリーが最多である点は変わっていないが、その割合は16.2%に落ち込んだ。多くの家計がこのカテゴリーから移動しており、特に上方向への移動が著しい。今では、所得が20万ドル以上の世帯は、全体の11.6%を占めている。世帯所得の平均値は、中央値を44.5%上回っている。
ここからわかるのは、所得が急速に増えた人の割合は上昇しているものの、米国社会を支える中間層は取り残されているという現実だ。
世帯所得に関する人種別の数字も存在するが、政府は後になってこちらのデータを収集するようになったので、1970年以降の全期間データがない人種もある。
そこからわかるのは、2021年時点で、中間値と平均値との違いが、白人の場合は42%であるのに対し、ヒスパニックでは39.5%、アジア系では37%になっていることだ。一方、黒人では中間値よりも平均値が46.8%高く、米国本土およびアラスカ先住民ではこの数字が43.1%になっている。