日々のニュースにもスパイ情報は隠れている
——池上さんにとって、スパイの魅力とはどういった部分なのでしょうか。やっぱり『007』を読んだときに感じたワクワクドキドキが原点ですね。良くも悪くも、スパイが“裏”で世界の歴史を変えているわけですから。スパイを通して歴史の裏側を知ることに魅力を感じます。
MI6関連でいえば、1953年にイランでクーデターが起きてモサデク政権が失脚した際にも、MI6とアメリカのCIA(中央情報局)のスパイが暗躍しました。
事の発端は、モサデク政権がイランに進出していたイギリスの石油企業をすべて国有化したこと。それに激怒したイギリスは、MI6を動かしてCIAと共同でクーデターを起こし、モサデク政権を打倒します。
ところが、結果的にそれがイスラム革命につながり、現在のような反米国家ができてしまいました。つまり、このクーデターが歴史を変え、今につながっているわけです。
カンボジアのポル・ポト政権誕生の裏にも、スパイの暗躍がありました。1970年3月、カンボジアのシアヌーク殿下がアメリカに協力的ではないからといって、CIAがカンボジアのロン・ノル将軍をそそのかしてクーデターを起こさせました。
クーデターは成功しますが、結局カンボジアの内戦に発展。ロン・ノル政権が倒れてポル・ポトが実権を握った結果、カンボジア国民が少なくとも100万人以上が虐殺されました。こうした他国の虐殺の原因をCIAがつくったと考えると、スパイが世界の大きな脅威になっていることがわかります。
——スパイに関する情報は、どのように収集されているのでしょうか。
それぞれの出来事を記した専門書に書いてあるので、興味のあるものを読んで知識を得ています。
あとは、日々ニュースに触れる中で「なぜこんなことになったのかな」と疑問を持ち、そこから掘り下げて調べることも多いです。
最近で言えば、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙が、CIAはワグネルが反乱を起こすことを何日も前から知っていたと報道し、日本でもニュースになりました。そのニュースを見たときに、「なぜCIAはその情報を掴めたのだろう」と疑問を持てば、そこを入り口に調べていくことができます。
——最後に、スパイに興味のある読者にむけて、池上さんおすすめの「スパイ」が出てくる作品を教えてください。
東西冷戦時代は敵味方がはっきりしていたので、その頃のスパイ活動を描いた作品はわかりやすくて面白いと思います。
たとえば、ジョン・ル・カレの『寒い国から帰ってきたスパイ』は文学作品としても極めて優れていますし、彼は他にも『パナマの仕立屋』をはじめ、たくさんの作品を執筆しています。
映画であれば、やはり『007』はおすすめですね。主人公のジェームズ・ボンドは、殺しのライセンスを持った「007」というコードネームのスパイなのですが、殺しのライセンスがあるというフィクションの要素が、作品をより面白くしていますよね。中でも私は、悲恋物語になっている『カジノ・ロワイヤル』が好きです!