これまでオタク心から収集してきた豊富な知識をもとに、2023年2月にはスパイを解説した『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)を上梓した。著書の中では、東西冷戦時代以降の現代史における“スパイ事情”を紹介している。
そんな池上の、お気に入りのスパイや、おすすめのスパイ作品とは——。ちょっと “オタク”な一面を掘り下げた。
前回>>スパイオタクの池上彰が解説。世界の「スパイ最前線」と日本の事情
小説『007』から、史実の裏で暗躍するスパイに興味を持った
——池上さんは、どのようなきっかけでスパイに興味を持ったのですか。きっかけは、中学1年生のときに読んだイアン・フレミングの『007』シリーズ(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)でした。映画化される前でしたが、小説を読んで面白いなと思ったんです。
その後、NHKの記者になって現代史を調べる中で、いろいろな史実の裏でスパイが暗躍していることに興味を引かれ、もっと知りたいと思うようになりました。
例えば、私が小学6年生のときに発生したキューバ危機(1962年10月〜11月)。アメリカとソ連の間でいつ核戦争が始まってもおかしくないという危険な状況でした。
この危機の発端は、キューバにソ連軍の基地が建設され、核搭載可能なミサイルが運び込まれているのをアメリカの偵察機が発見したこと。当時のアメリカとソ連は冷戦状態で対立していたにもかかわらず、アメリカはどのようにして基地建設の情報を得て、偵察に至ったのか——。
そうしたことを知りたくなり、自分なりに情報を集めるようになりました。
——フィクションを入り口に、実際のスパイについても研究するようになっていったのですね。現代史においては数々のスパイが暗躍してきましたが、池上さんのお気に入りのスパイはいますか。
やはり、「ケンブリッジ・ファイブ」の1人であるキム・フィルビーですね。ケンブリッジ・ファイブとは、1920年代から30年代にかけてイギリスのケンブリッジ大学で学んだエリートでありながら、ソ連のスパイとして活動していた5人を指します。
5人の中でも特に有名なのがキム・フィルビーです。彼はイギリスの諜報機関であるMI6で働きながら、そこで得た情報をソ連に流していました。
キム・フィルビー/Getty Images
彼は優秀だったためMI6で長官候補にまで上りつめ、MI6がソ連国内に苦労してつくったスパイ網の情報を掴んで横流ししました。ソ連はその情報をもとにイギリスのスパイを次々に摘発し、処刑。キム・フィルビーのために、何人のスパイが殺されたかわかりません。
あまりにも摘発されるのでイギリス側もおかしいと気が付いて、なんとかキム・フィルビーまでたどり着きましたが、いよいよ捕まりそうだというときにキム・フィルビーはソ連に亡命。ソ連で英雄として勲章をもらい、最期まで優雅な暮らしを送りました。