「勝者の思想」や「達成の思想」を抱くかぎり、逆境とは否定的な出来事であるが、「成長の思想」を抱くとき、人生の逆境が自分に語りかける「声」が聴こえてくるようになる。その逆境が、いま何を学べ、いかに成長せよと言っているのか、その「意味」が分かるようになる。そして、逆境とは「成長の好機」であり、天が自分を育てようとしている有り難い配剤であると感じられるようになっていく。
それゆえ、この「成長の思想」においても、夢や目標、志や使命感を抱いて歩むことは大切である。
それがあるからこそ、我々は、今日一日を、力を尽くして生きることができる。そして、目の前の逆境を、自身の成長の糧にしていくことができる。
夢や志があるからこそ、この一瞬を輝いて生き切り、成長し続けていくことができるのである。
人生において、何かが達成されるということは、実は、精一杯に生き切ったことに対して、天が与える余禄に他ならない。本来、今日一日を、感謝を抱き、幸せを感じ、輝きながら生き切ることができるならば、すでに私たちは、充分に報われている。
その日々こそが、奇跡の日々であり、素晴らしい「人生の成功」なのであろう。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。学校法人「21世紀アカデメイア」学長。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国7800名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』など100冊余。