食事がどのように関与しているか
荻野氏らが、若年層で増加傾向にある14種類のがんに関する世界のデータを分析したところ、早期発症がんの危険因子として、超加工食品と、甘い飲み物やアルコールの摂取が増加していることが特定されました。超加工食品が、マイクロバイオーム(ヒトの体に共生する微生物の総体)に与える影響に関する専門家であるティム・スペクター教授とクリス・ファン・トゥルケン博士によると、アメリカでは、現在、人々の摂取カロリーの60%以上が、イギリスでは、ヨーロッパで最も高い57%が、超加工食品です。マイクロバイオームは、ビタミンを生成し、免疫システムを調整し、食べ物の消化を助ける働きをしています。
荻野氏の研究によれば、食事、ライフスタイル、抗生物質の使用によって、健康に害を及ぼすものに変化してしまったマイクロバイオームは、「腫瘍発生のもう一つの顕著な要因」であるとされています。14種類の早期発症がんのうち、8つが消化器系に関連しており、そのことが「口腔マイクロバイオームと腸内マイクロバイオームの病原性の重要性を示している」と言います。
フィナンシャル・タイムズ紙の分析によると、開発途上国が豊かになるにつれて、欧米式の食生活やライフスタイルが取り入れられるようになり、そのことが、50歳未満のがん罹患率の上昇につながっているといいます。1990年から2019年にかけて、ブラジル、ロシア、中国、南アフリカなどの高中所得国では、15歳から39歳のがん罹患率が、高所得国に比べて大幅に増加しました。
急がれる政策的介入と官民連携
介入措置や予防策がなければ、将来の世代への影響は拡大するばかりです。すでに現在の若年層は、中高年層よりも早期発症のがんのリスクが高いのです。荻野氏の研究では、健康的なライフスタイルと食生活の利点について、より多くの研究と意識向上を呼びかけるだけでなく、タバコ、超加工食品、飲料を生産する産業への規制といった政策的介入が必要だと言及されています。
また、一部の臨床医は、がん検診の対象年齢の引き下げを求めている、とフィナンシャル・タイムズ紙は報じています。
現在、世界で毎年4100万人もの人が、がんを含む非感染性疾患で命を落としています。世界経済フォーラムは、ステークホルダー、産業、国、部門が、連携して共通のヘルスとヘルスケアの目標を達成するために努力することが極めて重要であると、報告書「グローバルヘルスとヘルスケア戦略展望:ヘルスとヘルスケアの未来を形作る(Global Health and Healthcare Strategic Outlook: Shaping the Future of Health and Healthcare)」で、強調しています。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
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