秘密めいたこの店の雰囲気が気に入って、筆者は後日1人で再訪したとき、試しに注文したのが、ネパール焼きそばの「チョウメン」だった。インドやネパールではチョウメンは広く食べられているというが、味つけは中国や東南アジアの焼きそばとは少し異なる。
調理にずいぶん時間がかかっていたので厨房を覗いたら、ネパールの乾麺をいったん茹でてから焼きそばにしているからだと判明。そのとき、これも「ガチネパ」なのだろうと筆者は思ったが、小林さんは次のように言う。
「チョウメンの出自はいろいろ調べましたが、なかなかつきとめられません。水餃子のモモはネパール固有の料理ではなくチベット料理で、ネワール族が本国に持ち帰って広めたといわれています。
最初は同様のルートでチョウメンがチベットから伝わったのかと思っていましたが、実はチベットには汁麺はあっても焼き麺は存在しないそうです。
ネパールのチョウメンはインド由来なのか。それとも、古来ネパールはチベット以外の中国本土(青海省など)やモンゴルなどとも人的往来があり、チベットの背後の中国本土から伝わったものなのか。私もよくわかりません」
これは中華の世界でも同じなのだが、食の伝播の諸相や各地で変貌自在な現地化が起こるなどの理由から、その料理がガチかどうかという判定はなかなか難しいものがあるのだ。
「ガチネパ」出現の主役は留学生
では、「ガチネパ」はどのようにこの東京に現れたのか。小林さんによると、2010年代以降、まず新宿区の大久保でネパール人街化が急速に進んだ。そして「ガチネパ」出現の主役はそこに住んだ留学生だったという。大久保はネパール人留学生が多く住む古アパートの多いエリアとなったのだ。
ちなみに法務省の統計では、2022年末の国籍別在日外国人数は、1位中国(76万1563人)、2位ベトナム(48万9312人)、3位韓国(41万1312人)、4位フィリピン(29万8740人)、5位ブラジル(20万9430人)、6位ネパール(13万9393人)。現在は6位だが、ネパール人はベトナム人とともに増加基調にあるという。