「本来、投資ファンドは産業別に5〜10年先を見たうえで投資テーマを決め、それに合った企業にアプローチすべきですが、これまで日本は投資機会が少なく、出てきた案件を見てバリューアップができるかを判断するしかありませんでした。それがここにきて案件数が急増。産業ごとにしっかり見ていけるようになりました。なかには大手や中堅のプレイヤーがいない領域もある。結果、ベンチャーも投資対象になったわけです」
とはいえ、既存企業へのマジョリティ投資とスタートアップへのマイノリティ投資では、企業の評価ポイントやバリューアップの方法が異なる。カーライルはバイアウトファンドとして成功体験を積み重ねてきたがゆえに、意識や手法をアップデートするのも容易ではないはずだ。
「経験の長い人はさまざまなイシューが頭に浮かび、コーシャス(用心深く)になりがちです。確かにそうした視点のみだとベンチャー投資は難しいでしょう。そこで若手や女性など多様な人でチームを組んで議論してもらっています。それを遠いところからフェアに見るのが私の役目」
アップデートは必要だが、変えてはいけない部分もあるだろう。では、山田が大事にしてきたものは何か。
山田は大学卒業後、海外で活躍することを夢見て銀行に就職した。配属は国内支店。5年間営業で頑張って結果を出し、ロサンゼルス支店への異動が決まった。国内では泥くさい人間関係の構築が武器になった。海外はもっとスマートな世界が広がっているのではないか。海をわたると、それが思い違いであることにすぐ気づかされた。
「有料道路やダム、スタジアムなどのプロジェクトを担当しましたが、プロジェクトファイナンスの世界はインナーサークル。信用がないと場に呼んでもらえなかった」
新参者の山田はどうやって信用を得たのか。いまでも覚えているのはソーラーパネルの建設プロジェクトだ。現場で予定外のことが起きて新たに予算が必要になると、デベロッパーは出資者にアメンド(条件変更)を請う。関係者が集まる電話会議で、先方は「タートル!」とアメンドを迫った。山田は、話にいきなりカメが出てきて困惑。まわりは「さっさと承認しろ」という空気だったが、プレッシャーに屈せず、「わからないから書面で送って」と頼んだ。
「読むと、『冷却池に天然記念物のカメが入ってくる。フェンスに折り返しをつけるから予算を認めろ』という話でした。確かに早く認めてもかまわないほどの些細な話でした。ただ、私はわかったふりをしてイエスと言えない性分。あのときは場がしらけていましたが、一方で、『こいつは無責任なことを言わない』と評価してもらえたのではないか」