当時は小説『ハゲタカ』の発表前だったが、すでに外資系バイアウトファンドに偏見があった。山田は銀行時代に築いた信頼関係を通じて投資候補の企業にアプローチしたものの、「どうせ外国人が経営陣に入るんだろう」と拒絶された。
カーライルは、日本企業のバリューアップは日本人に任せる方針を取っていた。山田はその場で「外国人は来ません」と言いたかった。しかし、グッとのみこんで本社に一つひとつ確認を取った。言葉に責任をもってこそ信頼を勝ち取れるのだ。
結果、その企業は山田を信頼し、カーライルの支援でMBOに合意。3年後にイグジットした。
プレイヤーとしてさまざまな案件を支援してきた山田も、12年から日本代表を務め、現在では投資先より機関投資家やチームメンバーと話す機会が増えた。話す相手は変わっても、コミュニケーションの流儀は変わらない。
「日本にはいい企業がたくさんあるのに、よさを発揮できていないところが多い。アメリカではファンドが経済のエコシステムの中心にいます。日本でも私たちがエコシステムを回して貢献したい。その思いをもった人と一緒にやっていきたいですね」
人によってはきれいごとに聞こえる発言も、山田が言うと嘘に聞こえないから面白い。
やまだ・かずひろ◎1963年生まれ。同志社大学経済学部を卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行。ロサンゼルス支店にて12年間勤務し、その後大和SMBCへ移り投資銀行業務に従事。2001年にカーライルへ入社。12年より現職。