月があらゆる人を照らすように
宏堂氏は、人が自分の好きな服を着て、好きなメイクをして「違法」だと言わるのは、とても辛いことだと語る。その理由として、アメリカ時代の忘れられない体験をあげた。「私はニューヨークでメイクをして出かけた時に、道で突然、男の子に石を投げつけられことがあります。世界には、同性愛自体が違法とされている国が60カ国以上あります。しかしそんな中、2022年にはシンガポールで同性愛が違法ではなくなりました。この、国ごとのギャップをどう埋めていくか。それを考え、実現するためにも、私は大学院などに学びにいきたいと考えています。
お寺を取り巻く環境の中でも、女性の立場はまだ弱いことが多いです。お寺に嫁いだから大学には行けず、和裁を習わざるを得なかったり。女性だからということで、お経を学ばせてもらえなかったり。まずは男女平等が実現しないと、その先のLGBTQや障害、人種問題まで気が向かないと思うのです。ですからLGBTQはもちろん、女性のイニシアチブを高める活動にも貢献していきたいと考えています」
宏堂氏の情熱的な言葉とともに、このインタビューを締めくくりたい。宏堂氏の哲学は、仏教の教義と、自身が体験した現実が交差するところに存在する。個々のアイデンティティが認知され、尊重される社会。そのために必要なのは、偏見や先入観を超越し、互いの違いを認め合うこと。月があらゆる人を平等に照らすように、社会もあらゆる人へ平等に光をあてることはできないのだろうか。
我々が宏堂氏の人生、つまり「西村宏堂の作品」をどのように解釈し、どのように感じるかを問うこと。それが、我々自身がどのような社会を望み、どのようにその実現に貢献するかを考えるきっかけになりうるだろう。
※ 参考:自己の多面性とアイデンティティの関連
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsyap/29/2/29_91/_pdf/-char/ja