韓国人の学生が兵役に行かなければならず、学校を2年間休学するというタイミングでした。その韓国人の学生はメガネを掛けて、いつもとてもおとなしいのですが、絵を描かせると先生よりも上手くて。ヌード画などは、キャンバスから人物が出てくるのではないかというほどの存在感を示していました。そんな彼が、兵役に行かなければならないということを、パフォーミングアートで表現したんです。
彼は軍服を着て、みんなの周りをランニングして、腕立て伏せをして、点呼みたいなものをデモンストレーションして。気迫のこもった様子から、『韓国人だから兵役に行かなければならない』そんな強い覚悟が感じられました。彼のパフォーマンスを見た時、人が普段は表に出さないような正直な気持ちを表現する時の勇気って、どんな作品にも負けないすごいインパクトと力があると思いました。そして、翻って自分は何なのだろうと考えました」
その時、宏堂氏は初めて自分のルーツに真摯に向き合った。確かに折り紙や華道も日本の文化ではあるものの、自身のルーツは家業の寺院にあり、やはり仏教にあると思い至ったという。
「ずっと嫌だと思っていたお坊さんの修行に行ってみたら、どんな心の変化があるのだろう。そして、どのように成長できるだろう━━。ずっと避けてきた仏教に真っ向から挑み、成長できたなら、そこで学んだことを日本だけではなく、世界に伝えていくことができるのではないか。そんな思いから、それまで嫌だった僧侶の道に進むことにしました」
宏堂氏が仏門に入ったきっかけは、一見すると自己否定だったように思える。しかし、背後には自身のアイデンティティと、自分を取り巻く環境とのギャップが存在していた。そのギャップに対する理解と受容が、僧侶としての道を進む決意を後押ししたのだろう。
仏教はLGBTQを応援してくれる
「実際に、仏教を学んで理解できたのは、仏教はLGBTQを応援してくれるメッセージを持っているということでした。仏教の起源であるインドでは、厳しいカースト制度がありました。もともと仏教はその階級差、人種差別というものに対抗して生まれたものです。だからこそ差別を否定し、『どのような人であっても、信じる気持ちがあれば救われますよ』という教えがすごく良くて。『月の光が街全体、世界全体を照らすのと同じように、どのような人でも月を見上げれば、その美しさを享受することができる。同じように、阿弥陀様の慈悲の心によって、どんな人だって救われる』という教えが印象的でした」
宏堂氏は自身を含めLGBTQ当事者は、仏教に救いを見出すことができるという希望を持っている。