食&酒

2023.08.06 08:30

誰もが働ける場をつくる。熊本発アイスクリームブランドの挑戦

「ある程度の規模にならないと広がらず、自分たちの本当にやりたいことも実現できません。クオリティとのバランスの難しさや葛藤もありますが、障害者や高齢者の雇用のためにも少しずつでも大きくなっていかなければいけないと思っています」

現在、ブランコアイスクリームでは梱包資材の組み立てなど、一部の作業工程を障害者に委託している。ただ、クラフトアイスの製造工程を担当してもらうには、彼らが無理なく行えるよう工場を構え、製造ラインを整える必要が出てくる。

また、障害者や高齢者に働く場を提供する就労継続支援B型は、一般的に最低賃金を下回ることが多い。そこで、まずは就労継続支援B型へ委託する際の工賃を上げていきたいと語る。そして最終的には、福祉サービスに依存しない自社での直接雇用を目指す。

運営にあたっては、継続と成長というキーワードを大切にしている。

「山都町にサッカーのクラブチームがあって、ある一人の小学校の先生がほぼボランティアで運営されているんですけど、僕が子どもの頃から20年以上続いていて。町の子どもたちは、みんなそこに通うんですよ。町民も運営に協力して、クラブチームが続いていくことが町の希望の光になっているんです。僕らのブランドも、そんな光のひとつになれているんじゃないかと思います。その光を消さずに成長していくことが、この町の未来、そしてさまざまな環境で働く人たちの未来をつくっていくと思っています」
 「ENJOY THE BREEZE」をコンセプトに、写真や映像、音楽と共に香りの風景を表現するフレグランスブランド「SANVA(サンバ)」 。アーティストとのコラボレーションにも要注目だ。

「ENJOY THE BREEZE」をコンセプトに、写真や映像、音楽と共に香りの風景を表現するフレグランスブランド「SANVA(サンバ)」 。アーティストとのコラボレーションにも要注目だ。


そのためにも、事業はアイスクリームに限らない。この春、耕作放棄地を活用したハーブティープロジェクトのクラウドファンディングも終えたばかりだ。今後は、山都町で育ったハーブやバジルを活用し、ブレンドティーやその他加工食品の販売を進める。また、先月7月に、農薬不使用の薬草から作ったフレグランスブランド「SANVA(サンバ)」を始動。いずれは自社で原材料を生産し、ライフスタイル分野の事業を拡張していく計画だ。

「これからも町の変わりゆく風景と真剣に向き合いながら、一つひとつ課題解決をしていきたいです。今は、そのための種を撒いている段階です」

起業した時は “ソーシャルビジネスをやりたい”などと思っていたが、実際にやってみると、社会課題に向き合うのはビジネスとして当たり前のことだと気がついた。

「特別な意識をしなくても、必然的に社会の課題に向き合う気持ちは湧き上がってきます。

ただ、そのように変化したのは、この町と人に実際に向き合い続けたから。これからビジネスを興そうという方は、目の前のコンサルタントと話をするだけではなくて、ぜひ現場に足を運んで、その現状を肌で感じてもらいたいですね」
 

吉山 龍弥(よしやま・りゅうや)◎大学卒業後、作業療法士として障害者福祉事業所に勤務。発達障害者(児)から認知症者の支援まで経験後、複数の新規事業立ち上げに従事。その後、発達障害専門クリニックや(株)LITALICO(障害者就労支援事業部門に配属)を経て、地元熊本県山都町にUターン。BLANCO ICECREAMを立ち上げる。2021年、グロービス経営大学院卒(MBA取得)。

文=佐藤祥子

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