経営・戦略

2023.08.04 07:30

評価額84億ドルのスーパーアプリ候補生。節約で成長した配車アプリ「ボルト」

投資家はほかの欧州のスタートアップにならって米国市場を開拓するよう促したが、ヴィリグはその代わりに南アフリカに進出し、母国エストニアが生んだオンライン無料電話「スカイプ」を駆使してスタッフを採用した。現地の人々の大半は、クレジットカードや銀行口座をもたないため、ボルトは現金払いに対応した。ナイジェリアやガーナなどのアフリカ諸国からの収益は、現在の同社のビジネスの3分の1を占めている。

調達した資金で「スーパーアプリ」へ

その後の数年で中国の滴滴出行(DiDi)やメルセデスから出資を受けたボルトは、21年から22年にかけての2回のラウンドで、セコイア・キャピタルとフィデリティから14億ドルを調達した。ヴィリグは、会社の成長を加速させるための資金を手に入れたが、ウーバーと同じ罠にはまらないよう気をつけている。

ボルトは、21年にウーバー並みの資金を調達した一方、損失もウーバーに匹敵する6億2200万ドルを計上した。その半分はパンデミック時の融資の返済に起因するものだが、ドライバーに対する高額な割増金も一因だった。さらに、同社はレンタカーやフードデリバリーなどのさまざまなサービスを統合する「スーパーアプリ」に成長するための取り組みにも資金を投入している。

ヴィリグによると、ボルトは22年に損失を大幅に縮小し、まもなく損益分岐点に戻る見通しだ。その背景には、彼らが、シリコンバレーの経営者に見られる派手な暮らしとは無縁だったことが挙げられる。ボルトの初期投資家の一人は最近、格安航空会社ライアンエアーの席にちんまりと座るヴィリグの姿を見たという。身長185cmの彼は、経費削減のために14ドルのアップグレード費用を支払うことすら避けているらしい。

「私たちはとにかくお金がなかったので、創業当初から非常に質素にやってきました。今では4000人の社員がいますが、みんな倹約を心がけてくれています。それこそが、この会社のアドバンテージなのです」(ヴィリグ)

配車アプリ「Bolt(ボルト)」共同創業者兼CEOのマーカス・ヴィリグ

配車アプリ「Bolt(ボルト)」共同創業者兼CEOのマーカス・ヴィリグ(Rita Franca / NurPhoto / Getty Image)


ここ数カ月で多くのハイテク企業が雇用を減らしたが、ヴィリグはレイオフ(一時解雇)を考えていない。パンデミックで収益が80%も減少したにもかかわらず、ボルトの従業員は最悪の事態を免れることができた。彼は「コロナ禍が終わって需要が回復したときに、当社はすべてのチームを維持できていた」と語る。
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文=イアン・マーティン 編集=上田裕資

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