政治

2023.08.05 08:30

原爆投下から78年。置き去りにされた原爆被害者の真実

犠牲になった朝鮮半島出身者の人数は、今も正確には把握されていない。韓国原爆被害者協会の推計では、広島・長崎と合わせて約7万人が被爆し、そのうち約4万人が死去したとされている。生存被爆者のうち、韓国には約2万1000人が帰り、北朝鮮には約2000人が渡った。金さんのように日本に留まった人は、全体で約7000人だという。

金さんはこれまで、総連関係の被爆者が属する「広島県朝鮮人被爆者協議会」の幹部として、広島に暮らす同胞の支援に奔走してきた。そして北朝鮮に渡った「在朝被爆者」を支援するよう、日本政府に求め続けている。

政府は、米国や韓国など海外に暮らす被爆者にも手帳を交付しており、「北朝鮮に居住している者も含め被爆者援護法および在外被爆者支援事業の対象」(2022年12月9日参議院答弁書)としている。しかし、北朝鮮とは国交がないため、在朝被爆者は中国など「最寄りの領事館」を訪れて手帳や手当の申請を行う必要があり、事実上援護が届いていない状態だ。

現地の朝鮮被爆者協会による2008年の調査では382人の生存が確認された。2018年には111人の状況が把握できたが、生存者は60人に留まり、手帳を持っていたのは1人だけだった。金さんは言う。

「何の罪もないのに強制連行され、日本の戦争と関係がないのに原爆の被害に遭った。それなのに、現在に至っても謝罪も補償もない。在朝被爆者は、今も置き去りにされている最大の原爆犠牲者だと思います」

分断深まる今こそ統一碑を

置き去りにされてきた在朝被爆者。そして、差別にさらされ病苦に耐えながら生き抜いてきた在日朝鮮人の被爆者たち。だが、この5月に日韓両首脳が訪問した慰霊碑は、あくまで「韓国人」犠牲者を追悼するためのものだ。

在日本大韓民国民団(民団)の有志が1970年に建立し、毎年8月にはこの前で慰霊祭が催されている。納められる死没者名簿へは、基本的には民団関係の被爆者の名前がつづられる。碑文にも「韓国民」との文字こそあれ、「朝鮮人」との文字はない。

「あの碑を見た人は、朝鮮人被爆者はいないんだな、ときっと思うでしょう。韓国人しか被爆しなかったのだ、と」

金さんの瞳が揺れる。原爆が投下された1945年時点では、朝鮮は一つの国だった。南北の分断という現実が、この慰霊碑上にもある。
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文=小山美砂

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