隕石の一種である隕鉄は大昔、多くの地域で人間に利用されていた。これまでに、トルコやギリシャ、シリア、イラク、レバノン、イラン、インドネシア、カナダ、グリーンランド、ロシア、中国、北アフリカで、隕鉄製の儀式用短剣や小立像、宝飾品などが発見されている。エジプトでは、6000年近く前に造られた墓地から出土したネックレスが隕鉄製と判明し、エジプトの鉄器時代の2000年に鉄が使われていたことがわかっている。
ただ、欧州の中部から西部ではこれまで、隕石由来の考古遺物は2点しか知られていなかった。いずれもポーランドで見つかったブレスレットと斧の刃である。
考古学者と地質学者の研究チームはこのほど、スイスで発掘されていた矢じりが隕石の鉄でできていることを確認し、元になった隕石の候補を突き止めた。研究チームは電子顕微鏡画像やX線、放射線分析といった手法を組み合わせ、鉄やニッケルでできた矢じりの化学組成を特定。これを既知の隕石のサンプルと比較して、似たものを見つけた。
この矢じりは、100年以上前にスイスのメーリゲン遺跡で発見されたいくつかの矢じりのひとつで、ほかのものは青銅製だった。現在はベルン歴史博物館に収蔵されている。
後期青銅器時代に湖畔に建てられた杭上住居(水辺や湿地に杭を打ってその上に築いた住居)跡であるメーリゲン遺跡に、研究チームが特別な関心を寄せたのは、付近に隕石が落下しているからだった。「トゥワンベルク鉄隕石」と呼ばれるこの隕石は3つの破片からなり、スイスで発見された隕石としては最大だ。
この隕石のかけらが先史時代に見つかって、近くの集落で矢じりを作るのに使われた可能性は十分あるように思えた。しかし、当の矢じりとは化学組成が一致しなかった。
そこで研究チームは調査対象を拡大。すると、この矢じりのニッケルとゲルマニウム濃度は、エストニアで発見された「カーリヤルフ隕石」と似ていることがわかった。
カーリヤルフ隕石は約3500年前、青銅器時代に落下し、多数の小さな破片をまき散らした。その様子は、当時の人も観測していたかもしれない。こうした小さな隕鉄の破片のほうが、大きな隕石が地中に埋まった場合よりも、見つけられて集められる可能性はかなり高くなると考えられる。
エストニアとスイスの間に浮かび上がったつながりは、有史以前の欧州に、琥珀や火打ち石、鉄隕石などの交易に使われたネットワークが存在したことを裏づけるものにもなる。研究チームは、ほかの収蔵品からも、カーリヤルフ隕石に由来する遺物が見つかることを期待している。
研究成果は学術誌「Journal of Archaeological Science」に発表された。
(forbes.com 原文)