論文では、感染経路がはっきりしないフロリダ州在住の男性の症例に焦点があてられた。男性には国内・海外渡航歴がなく、ハンセン病流行国の出身者との長期の接触や、感染源となるアルマジロとの接触もなかった。
米国での症例はまだ少ないものの、感染経路が不明の症例が相次いでいることから、治療・予防が容易な感染症が特定の地域内で発生し続ける「エンデミック(風土病)」となっている可能性が指摘されている。
論文によると、米南東部のハンセン病感染は2020年に増加し、その大半がフロリダ州でのものだった。論文を執筆した研究チームはこのことから、医師に対し、フロリダ州への旅行歴のある患者にハンセン病の検査をするよう推奨している。
2011~20年の年間症例数は、全米では173件から159件に減少した一方、南東部では2倍以上に増加したという。増加ペースが最も高いのがフロリダ州中部で、州内感染例の81%、全米感染例の5分の1を占めていた。米厚生省のデータによると、フロリダ以外で新規感染例が多い州はテキサス、ハワイ、カリフォルニア、ニューヨーク、ルイジアナで、症例全体の69%がこれらの州で確認されている。
感染者の約66%は流行国からの移民だった一方、約34%は国内感染者だった。論文によると、感染経路が不明で、動物との接触やその他の一般的なリスク要因の「明確な証拠」が存在しない症例が相次いでいるという。
ハンセン病は「らい菌(Mycobacterium leprae)」と呼ばれる病原菌により引き起こされ、治療が遅れると皮膚の変形や、末梢神経障害、失明といった症状が生じる。米国皮膚科学会によると、らい菌の感染力は弱く、感染者との数カ月にわたる濃厚接触がない限り感染はしない。よって、感染者と握手や長時間の会話をしても、感染の心配はない。
動物から感染する場合もある。コロラド州立大学の研究では、ブラジルで食用とされているアルマジロとの接触により感染例が増加したことが報告されている。
ハンセン病は、治療により治る病気だ。一般的な治療法では、抗生物質を含む複数の薬剤を1~2年にわたり投与する。治療が長期にわたることから、菌に耐性が生じることを防ぐために複数種類の抗生物質が使われる。治療が遅れると、足の裏の難治性潰瘍や、失明、麻痺、鼻の変形、手足の指の萎縮を引き起こすため、早期の診断が重要となる。
ハンセン病は古くから存在する病気で、患者はかつて、感染拡大の懸念により社会から強制的に隔離されていた。欧州では、ハンセン病患者が「ラザーハウス」と呼ばれる専用施設に収容されたり、家を追い出されたりした。中世には、ハンセン病感染者を社会にとってすでに死んだ人とみなす「死のミサ」と呼ばれる儀式も開かれていた。
(forbes.com 原文)