企業版ふるさと納税は法人が自治体に寄付する制度で、2016年の開始以降、累計10億円以上を集める自治体も出てきた。地域活性につなげる新たな財源として、企業と自治体が手を組み、資金を集めていく手法は興味深いという。
まちづくりや多様な産業を盛り上げるため、企業と自治体はどのようにタッグを組み地域の課題解決や新規事業の創出に繋げているのか。新連載「クレイ勇輝の『企業版ふるさと納税』聖地巡礼」では、新たな連携のかたちを探っていく。
初回は北海道大樹町(たいきちょう)と手を組み、商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」の企画運営会社「SPACE COTAN(スペースコタン)」に着目。約2年で北海道スペースポートのロケット発射場や滑走路などハード整備の資金として、130社以上から約9億円もの企業版ふるさと納税を集め、奔走してきたCOOの大出大輔に話を聞いた。
宇宙産業、2040年には100兆円規模に
クレイ勇輝(以下、クレイ):「宇宙産業」と聞いてもどこか遠い世界の話で、私たちの生活との関わりは薄いだろうなと感じていました。ところがどうもそうではないらしいのです。北海道の大樹町という人口5400人の小さな町が、企業版ふるさと納税の制度でスペースポート(宇宙港)の建設・運営のための資金として、2021年度は5億2460万円、2022年度には2億7115万円もの寄付を企業から受けたことが話題になっています。「宇宙」のためにこれだけのお金を集めた。これは企業版ふるさと納税の“聖地”を紹介する連載の1回目にふさわしいケースだと思いました。
「宇宙」と聞くと心をくすぐられる一方で、ビジネスの話になったとたん「宇宙ですか?」と怪訝な反応を見せる人は多いと思います。まず宇宙産業は今どこまで来ているのか、教えてください。
大出大輔(以下、大出):いまクレイさんがお話しされた通りで、私もはじめは宇宙産業のことは何も知りませんでした。宇宙と聞いただけで、国家規模で予算を投入しても、一体それが社会のどの部分に役に立っているんだろう、それくらいの認識でした。
クレイ:考え方がガラリと変わったわけですね?
大出:まず2020年の世界の宇宙市場規模は約40兆円ですが、2040年には100兆円を超えるまでの成長が見込まれていて、これはあらゆる産業の中でトップレベルと言われています。だからSpaceXのイーロン・マスクやAmazonのジェフ・ベゾスが宇宙にフルベットしているわけです。
これほど成長が見込める理由のひとつには民間企業が人工衛星を使って様々なサービスを始めたことにあります。小型人工衛星の通信網によって地上のアンテナやケーブルではカバーできない地域でもスマホを利用することが可能になりました。また、宇宙経由で取得した情報は様々な場面で利用されています。
有名な例ですと、世界中の石油タンクの屋根(蓋)の上下の動きを観測することで貯蔵量を把握できるようになります。石油タンクは気化を防ぐため、量が減ると屋根も沈むように出来ています。宇宙からは、屋根にかかる影の大きさをAIで観測して変化を把握できる。
つまり石油の先物取引などでその情報を活用できるので、すでに投資家間では判断材料になっています。農作物の成長を観測してベストな収穫期を判断し、GPSでトラクターを無人操作して収穫するスマート農業も可能になります。