経済・社会

2023.08.03 08:00

ニジェールの政変がEUの「原発ウラン」供給を脅かす可能性

Maurice ASCANI/Gamma-Rapho via Getty Images

先週、クーデターが起きた西アフリカのニジェールは、EUの原子力発電所向けのウランの主要な供給元として知られている。このため、ウランのヨーロッパ諸国への供給が危機に瀕するのではないかという懸念が広がっている。

世界原子力協会によれば、ニジェールのウランの生産量は世界の5%程度と少ないが、ポリティコによれば、フランスは全体の15%をニジェールに依存しており、EUも20%以上をニジェールから調達しているという。

フィナンシャル・タイムズは7月31日、ニジェールの暫定軍事政権が、旧宗主国であるフランスへのウランの輸出をただちに停止すると述べたと報じた。

EUの原子力機関のEuratom(ユーラトム、欧州原子力共同体)は8月1日のロイターの記事で、ニジェールがウランの供給を停止しても、EUの原子力発電にただちにリスクはないとし、EUには原子力発電のためのウランの3年分の在庫があると付け加えた。

フランス政府の関係者も、ニジェールのクーデターが欧州のウラン供給に与える影響を否定している。関係者は1日のポリティコに対し、フランスは特定のサイトや企業、国のウランに依存しているわけではなく、ニジェールの状況は「フランスのウラン供給の安全保障に何のリスクももたらさない」と述べている。

ニジェール北部でウラン鉱山を運営するフランスの原子力企業オラノ社も、状況を注視しているが、今のところクーデターによるウラン供給への影響はないとアルジャジーラに語っている。

ユーラトムのデータによると、2022年のEUへのウランの供給量にニジェール産が占める割合は25.38%で、26.82%を占めたカザフスタンに次いで2位だった。3位は、カナダの21.99%だった。

ニジェールの軍部は26日、大統領官邸を封鎖し、その数時間後に10人の兵士からなるグループが国営テレビでクーデターを宣言した。2021年に民主的に選出されたモハメド・バズム大統領は、27日のツイートで「苦労して勝ち取った成果は、民主主義と自由を愛するニジェール人によって守られる」と国民に伝えた。

フランスはニジェール産ウランの主要輸入国の1つであり、EU加盟国のうち原子力発電所をエネルギー源としている13カ国のうちの1つに挙げられる。ドイツのように脱原発を進める国もあるが、フランスは以前から、原子力エネルギーが化石燃料に代わる低炭素の電力供給源になると主張している。

ロシアの存在感の高まり

多くの欧州諸国がウランを必要としていることが、EUのロシアに対する核制裁を妨げる可能性があるとエネルギーの専門家は指摘している。仮にニジェールからのウラン供給が減少すれば、EU諸国は他の国に供給源を求める可能性がある。一方、ロシアは世界最大のウランの輸出国の1つであり、2022年に約2500トンを産出する見通しという。

今回のクーデターには、ロシアの民間軍事会社ワグネルの関与が指摘されている。米国とフランスは、ニジェール国内の反政府勢力との戦いにおいてニジェール政府を支援したが、マリやブルキナファソなどの周辺諸国は、ロシアのワグネルに支援を求めている。昨年、ブルキナファソで軍事クーデターが起きた際には、ロシアの旗を振るデモ隊がフランス大使館を包囲し、襲撃していた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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