経営・戦略

2023.08.08 17:00

メロディ・ホブソンが練るお金と「新しい希望」のプロジェクト

模倣者の誕生が成功指標

22年、プロジェクト・ブラックは初の投資を行い、別の投資企業からソレンソン・コミュニケーションズを買収した。創業20年、21年9月までの事業年度に8億3700万ドルを売り上げた同社は、電話音声字幕化から手話通訳者派遣まで、ろう者・難聴者向けサービスを提供する先駆者だ。新CEOのジョージ・ロドリゲスは電気通信業界のベテランで、メキシコ人億万長者カルロス・スリムの下でさまざまな子会社を手がけてきた。1年弱で、ソレンソンの経営陣の有色人種は1人から13人にまで増え、年間収益4500万ドルのマイノリティ保有企業、CQフルーエンシーの株式の70%を買収することで合意した。CQは米国の大手健康保険事業者に翻訳サービスを提供している。

プロジェクト・ブラックは他分野でも企業の買収、マイノリティ化、規模拡大を行う計画だ。「私たちは(マイノリティの就労先として一般的な)用務員の派遣業者になりたいのではありません」と、事業を率いるブランは強調する。「経済の主流派となり付加価値のあるサービスを提供したいのです」

あの日曜日のZoom会議に参加していたメンバーには、いまやプロジェクト・ブラックの顧問となった人々もいる。ラザードの投資銀行会長を長年務めたウィリアム・M・ルイスや、ボーイング元CFOでアップルなどの取締役を兼任するジェームズ・ベル。マクドナルド、ナイキ、ニューヨーク・タイムズの取締役に名を連ねるロジャースも顧問のひとりだ。
40年前にアリエル・インベストメン ツを創業して以来、ジョン・W・ロジ ャース・ジュニアはウォーレン・バフ ェットの知恵に従ってきた。1987年 の株価大暴落の際に株式を買い増し たのも、バフェットの「ほかの人々が おびえているときに貪欲になれ」との 助言を心に置いてのことだ。

40年前にアリエル・インベストメンツを創業して以来、ジョン・W・ロジャース・ジュニアはウォーレン・バフェットの知恵に従ってきた。1987年の株価大暴落の際に株式を買い増したのも、バフェットの「ほかの人々がおびえているときに貪欲になれ」との助言を心に置いてのことだ。


彼らの予測では、ポートフォリオ企業の年間収益は翌10年間でさらに80億から100億ドル増加し、10万件の雇用を生み出す。だがそれは始まりに過ぎない。大企業のなかには、マイノリティ保有企業からの仕入れ率を現在の2%から15%にまで引き上げようとしているところもある。1兆ドル規模の取引創出だ。マイクロソフト元CEOで、プロジェクト・ブラックに2億ドルを投資したスティーブ・バルマー曰く、その転換は「投資家としての我々にも大きなリターンをもたらすだろう」。ブランは、模倣者となるファンドが続出すればプロジェクトは成功だという。

CEOで、プロジェクト・ブラックに2億ドルを投資したスティーブ・バルマー曰く、その転換は「投資家としての我々にも大きなリターンをもたらすだろう」。ブランは、模倣者となるファンドが続出すればプロジェクトは成功だという。

「実業界からは(マイノリティの)逸材を見つけられないと何度も聞かされてきました。でも、私たちはそんな逸材が随所にいるのを知っています。起業家でありビジネスリーダーである人材が」


メロディ・ホブソン◎アリエル・インベストメンツ社長兼共同CEO。米国で最も影響力のある黒人投資家のひとり。2021年にスターバックスの非常勤会長となり、S&P500構成企業で唯一の黒人女性の会長となった。元ドリームワークス・アニメーションの会長で、16年NBCユニバーサルとの買収交渉を終えた後、退任。映画監督の夫ジョージ・ルーカスとの間に一人娘がいる。

文=マネト・アフジャ、ハンク・タッカー 写真=ジャメル・トッピン 翻訳・編集=坪子理美

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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