技術シーズを実装するため起業
奥井はIDSでの学びと並行して、国立循環器病研究センターを中心とした心不全の研究プロジェクトに参加した。もともと、心不全関連の医薬品・サービスを扱ってきた経験があり、心不全パンデミックへの危機感の高まりを受け、この分野で貢献できることはないか、と考えたためだ。そのプロジェクトは、複数の大学も参加し、心不全の診療にAIを活用することを想定したもので、奥井はそのアカデミックの研究を「心不全診療支援AI」というプロダクトとして世に出すため、2023年2月にCubecを起業した。
「心不全患者の急増と専門医不足は、かかりつけ医の負荷を増加させています。この課題自体は既知のものでしたが、具体的にかかりつけ医が何に困り、何があれば助けになるのか、具体的な解決の糸口は見えていませんでした。そこで、デザイン思考を用いて医療現場を観察し、プロトタイプの確認と医師からのフィードバックを繰り返す中で、いくつかの真の課題を発見しました」
「診療支援AI」で医師をサポート
心不全パンデミックに立ち向かうスタートアップは、Cubec以外にも複数出てきている。医師と医師をオンラインでつなぐサービスは既にあるが、限られた数の専門医の負担を考えるとこれだけでは対応しきれない。Cubecは、この課題にAIを持ち込むことで、最適な心不全診療をどの地域でも受けられる社会の実現を目指す。具体的にAIを活用するのは、次の3つの範囲だ。
1)個別のリスク判定
心不全の多様な病型と多数の要把握項目を統合し、状態を評価する
2)個別の治療提案
評価した状態を踏まえ、多数ある治療選択肢から最適な組み合わせを提案する
3)エビデンスの検索
かかりつけ医が意思決定するための関連情報を認められたエビデンスから提供する
このAI活用を、CAIO(Chief AI Officer)の新井田が担う。
新井田は、データ活用のパイオニアであるブレインパッドで複数のAIプロジェクトを成功させた後、製薬会社アッヴィでデータサイエンスマネージャーとして8年間のキャリアを積んだ。AIを患者とその家族、医療従事者に役立てることに奔走してきた、製薬業界におけるAI開発のエキスパートだ。