日本ではあまり取り沙汰されなかったが、アメリカのデュポン社が1930年代に発明した魔法のようなテフロン加工の技術が、人体や近隣の環境に大きな被害をもたらしたとして提訴されたのが、2015年のことだ。
ごく簡単に言うと、金属にフッ素樹脂を吹きつける際に、密着をよくするためにPFOAという助剤を使用する。その作業中にPFOAは空気中に飛散し、排水としても流出するなどした。このPFOAには発ガン物質や環境に負荷をかける物質が含まれていることがわかったのだが、デュポン社は有害という事実を知りながら、60年以上も隠し続けてきたというのだから罪深い。提訴を経て、2019年、世界的にPFOAの使用は禁止されるようになった。
その後、どのようにしてフッ素樹脂加工の調理器具が作られるようになったかといえば、人工的に作られた有機フッ素化合物「PFAS」の中でも「PTFE」という、現時点で人体への害がないと報告されている物質が多く使用されるようになったという。
しかし、環境においてはベターなものであるとはいいがたい。なぜなら、フッ素樹脂は“フォーエバーケミカル”と言われるように、永遠に土に返ることのない成分だからだ。
持続可能な社会を目指す環境先進国からは、PFASの使用も制限しようという動きがみられるようになっている。デンマーク、ノルウェー、オランダ、ドイツ、スウェーデンの5カ国では、2025年の1月よりPFASの使用を禁止するという条約が結ばれた。
ドイツに本社を持つ「フィスラー」社では、いち早くこうした動きに対応すべく、フッ素樹脂加工ではない、ノンスティックパンの製造を試みている。「セラタル」というブランド名で日本でも販売しているセラミック加工のフライパンがそれだ。
本体にアルミニウム合金、底にアルミニウム合金とステンレス鋼を使用し、成型後に、フッ素樹脂の代わりにセラミックを使用したコーティング剤をフライパン本体に吹き付けて加工する。その際には、一切PFASを使わない。
人体に害がないのはもちろん、セラミックもステンレスも自然由来の素材である。やや重いという難点はあるものの、化学的な物質を使用していないというのは気持ちがいい。