健康

2023.08.02 07:30

世界がパンデミック対策のヒントにすべき日本の結核対策

2021年7月上旬、まん延防止等重点措置下の東京の街並み (Mauro Ujetto / NurPhoto / Getty Images)

いずれ訪れるであろう、次のパンデミックへの備え──。コロナ禍以降、世界各国がこの課題について高い危機意識をもつようになった。そして、世界三大感染症の流行を終わらせることを目的とした国際機関「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」のピーター・サンズ事務局長は、そのヒントが日本にあるかもしれない、と考えている。自身の来日経験をもとに、サンズ氏がその理由を寄稿した。


今年3月、私は新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、初めて日本を訪れました。日本にはそれまでに数回訪れたことがありますが、東京の活気あふれる街並みを歩くたびに、この大都会で暮らし、働き、遊ぶ人々の多さに驚かされます。

東京都市圏の人口は3700万人を超えています。このように過密な大都市を擁し、かつ世界一高齢化が進んだ国である日本が、新型コロナウイルス感染症による死亡率が他の先進諸国に比べて格段に低いのは、驚異的なことに思えます。
 
日本における新型コロナウイルス感染症による死亡者数は2023年6月時点で100万人あたり602人で、G7諸国中2番目に低いカナダの約半分です。米国、英国、イタリアの死亡者数はいずれも100万人あたり約3300人ですから、それと比べると数分の1に過ぎません。

日本が、他のOECD加盟国と同規模の悲惨な死を回避できたのはなぜなのでしょうか?
 
そのカギは、第二次世界大戦後の日本の結核対策と、国民健康保険制度に代表されるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成にあります。1950年代初頭、日本における死亡の主な原因であった結核と闘うべく、日本は全国規模で大がかりな対策を展開しました。

最新の科学的手段、コミュニティの動員、民間セクターの参画、そして社会的に最も脆弱なコミュニティに支援を届けようとする人々の努力を結集したのです。草の根レベルの実体験を高レベルの政策に反映したりしたほか、地元グループの活動による患者の発見、職場における検査の義務化など、今日の保健システムで革新的とされる取り組みの多くは、日本が数十年も前に先鞭をつけたものです。
 
日本は結核の感染者と死者数を激減させただけではありません。こうした取り組みを基盤に、強力な公衆衛生の要素を備え、すべての人々が利用できる包括的な保健システムであるUHCを構築したのです。日本の保健システムは、早期に介入し、患者の健康状態を徹底して観察し、また最も重要な点として、誰ひとり取り残さないことを目指しています。
 
完璧な保健システムなどありえません。しかし、新型コロナウイルス感染症に対する日本の成功は、こうした取り組みの強さを実証しました。
 
日本は感染症対策に集中的に取り組むことで、特定の感染症の脅威を阻止する以上の効果が得られることを証明しました。貧困や差別に苦しみ、脆弱であったり地理的に孤立していたり、病気や疾患の影響を不均衡に受けている人々にも届く、真にユニバーサルで強靭な保健システムが構築できるのです。

私たちは日本から学び、結核やエイズ、マラリアなどの感染症を終息させる世界的な闘いで、この二重のチャンスをつかんでいくべきです。世界の多くの国にとって、UHCを達成する最善の方法は、予防も治療も可能であるエイズ、結核、マラリアとの闘いに終止符を打つことです。これら三大感染症との闘いを加速化することで、さらに数百万もの命を救えると同時に、世界が将来の保健に対する脅威との闘いに備えられるような、より強靭にして公平、持続可能な保健システムを構築するという二重の利益が得られます。

世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長のピーター・サンズ氏  Courtesy of The Global Fund

世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長のピーター・サンズ氏 Courtesy of The Global Fund

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文 = ピーター・サンズ

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