水素ステーションの少なさがネック
FCVを自家用車として普及させる試みは挫折の連続と言って良い。世界初の量産FCVであるトヨタ自動車の初代「MIRAI」は、2014年末の発売から6年後の2020年11月に販売を終了するまで、世界での累計販売台数は約1万1000台にとどまった。大幅に改良した2代目でさえ2022年の世界販売台数は年間で4000台にとどまる。世界で最も販売台数の多いFCV乗用車は韓国現代自動車の「NEXO」だが、それでも2022年の世界販売台数は1万台程度だ。普及が足踏みするFCVと対照的に普及が急加速しているのが、EV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)である。両者の合計で、2022年には世界の自動車販売の約10%に達した。この差はどこにあるのか。FCVはEVと同様に走行中にCO2を排出しない。また、充電に最低でも30分程度かかるEVに比べて、FCVには燃料補給に数分しかかからないという利点もある。しかし、普及のネックになっているのが水素ステーションの少なさだ。国内ではわずか163カ所(2023年1月末時点)* にとどまる。
(*)令和5年6月再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議の「水素基本戦略(案)」によれば、日本は、商用車・乗用車、港湾、そして地域の燃料供給拠点などに応えうる「マルチステーション」を見据えている。また、2030年までに、乗用車換算で80万台程度の普及、水素ステーションは1000基程度の整備を目標としている。
一方で、EVは家庭で充電できるという大きなメリットがある。地方ではガソリンスタンドの数が減り、「SS(サービスステーション)過疎」という言葉が生まれるほどだ。ガソリンの補給のためだけに往復40分ほどもクルマを走らせなければならないところも出てきている。このガソリンスタンドの減少が、日産自動車の軽自動車EV「サクラ」の好調を支える一つの要因になっている。また、自宅で充電できれば、走行にかかる電気代は、同クラスのエンジン車におけるガソリン代の1/3程度、HEV(ハイブリッド車)に比べても1/2程度で済み、維持費が安いというメリットがある。これに対してFCVの水素燃料代はエンジン車のガソリン代とほぼ同等の水準だ。厳しい言い方をすれば、FCVはユーザーから見ると、高価で、燃料補給が不便で、燃料代のメリットもない「買う理由のないクルマ」でしかない。