食&酒

2023.08.02 12:30

ガストロノミーの力で社会変革を 店を持たないトルコ人シェフの活動とは

「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ (BCWP)」の贈賞式にて

去る6月7日、明治神宮で、世界的な料理の大学かつ研究機関である「バスククリナリーセンター」(Basque Culinary Center、以下BCC)主催のガストロノミーサミット「バスク・キュリナリー・ワールド・プライズ (BCWP)」の贈賞式が開催された。

BCWPは、世界中のシェフを対象とし、教育、健康、研究、持続可能性、社会的起業家精神、慈善活動、地域文化の保存など様々な分野において、ガストロノミーによって変革をもたらし、めざましい業績をあげたシェフに贈られるものだ。日本ではまだまだ聞きなじみがないが、世界的には権威のある賞とされている。

また会場では、BCCの顧問や世界的に影響力のあるシェフたちが、今のガストロノミー事情から地球環境への懸念までを語り合うカンファレンスが行われた。日本のホストは「NARISAWA」の成澤由浩氏。日本で唯一、BCWPの顧問を長年務めてきた人物でもある。


BCWPは、BCCプロデュースのもと、スペイン・バスク州政府が2016年に創設。世界的に影響力のある料理人たちを顧問に迎え、その選定にあたっている。現在顧問となっているのは、成澤氏を含む5名のシェフだ。その固定メンバーに加え、「世界のベストレストラン50」などで大きな功績を残している若手シェフが毎年追加され、審議会が構成されている。

受賞者の選出方法であるが、自薦または他薦により集まった情報をBCCが詳細に調査し、書類選考の上、候補者を絞り込む。その詳細な調査に関しては、世界各地のリサーチャーが1年かけて綿密なリサーチを行い、候補者を2人か3人までに絞り込み、それをBCWPの会議にかけ、審議員たちが最終的に一人を選考する。

2023年のプライズを受賞したのは、トルコのエブール・ベイバラ・デミール(Ebru Baybara Demir)シェフ。店は持たず、フリーで活動している女性シェフで、社会発展と生物多様性の観点からガストロノミーを文化の統合へと導いたというのが受賞理由だ。
エブール・ベイバラ・デミール シェフ

エブール・ベイバラ・デミール シェフ


具体的には、地域の移民危機、気候変動に直面した土壌の再生、さらにはトルコで起きた地震などの災害時の人道支援に対処する取り組みに20年間携わってきたことが評価された。現在は、地元の先祖伝来の穀物の生産や消費を奨励する地域ボランティア「From Soil to Plate」を支援しているという。
次ページ > 次点に終わった2人のシェフもご紹介

文=小松宏子 写真=Basque Culinary Center

ForbesBrandVoice

人気記事