今年になってからMLBのオークランド・アスレチックスのホーム球場であるオークランド・コロシアムで、「逆ボイコット」というあまり聞きなれない事態が起こっていた。
地元アスレチックスのファンは、チームをラスベガスに移転するというオーナーのジョン・フィッシャーの計画にかねてから不満を抱いており、そのため観戦に行かないというかたちで抗議もしていた。
しかし、それだと「観客が少ないから、移転するのだ」という理由をオーナーに与えてしまうということで、今度は観戦に集まるという「逆ボイコット」で抗議を表明しているのだ。
多くのファンは、オーナーのフィッシャーが移転を諦め、地元オークランドに新しいスタジアムを建設してくれそうな人物にチームを売却することを望んでいる。 彼らはまた、フィッシャーの投資や、ファンや街とのコミュニケーションの欠如に、裏切られたとも感じている。
チームの移転はすでに最終段階に
7月25日(現地時間)には、サンフランシスコ湾を橋でわたったところにあるサンフランシスコ・ジャイアンツ球場(オラクル球場)で、因縁のサンフランシスコ・ジャイアンツとの試合があった。普段は両軍のファンが激しいヤジを飛ばし合うのだが、ジャイアンツのファンがアスレチックスのファンと一体となって、フィッシャーへの抗議(逆ボイコット)に参加したのだ。球場では、チームカラーのオレンジの衣装を着たジャイアンツのファンと、グリーンのアスレチックスのファンが一緒になって立ち上がり、「チームを売ろう!」というシュプレヒコールを唱えた。
しかもこの特異な一体感は、双方のファンを驚きと戸惑い、そして感動をもって包み込み、なにかとアメリカンフットボールやバスケットボールなどの他の競技と比べられて、「野球は過去のものだ」と断言されることの多い全米のスポーツ界では、新鮮に受け止められた。
さらに当日、アスレチックスのファンには 「SELL」の 4文字Tシャツが頒布されており、ジャイアンツのファンまでもがこれを着て観戦する様子がテレビでも流れた。
とはいえ、この「逆ボイコット」で頂点に達しているかに見られるファンの抗議の一方で、移転の話はすでに不退転のことのように見える。
筆者は、チームが移転されようとしているラスベガスに住んでいるので、長年かけて行政と民間が一体になって誘致活動をしてきていて、この話が相当な根回しと交渉の重ねられたものであることを承知している。