食&酒

2023.07.30 11:00

「ノーマプロジェクト」拠点で見た、生き物としてのレストラン

ノーマ ヘッドシェフのケネス・フォーン氏

デンマークを代表するレストラン「ノーマ(noma)」には、様々な冠がつく。「あの、アリを出す…」だったり「発酵の…」だっやり、「世界No.1」だったり。美食の世界をここまで動かしたのは、近年、レネ・レゼピ率いる、このレストランをおいて、他にはないだろう。

世界のベストレストラン50で5回の世界一に輝いたその店が、オープンから20周年を迎えた今年の1月、閉店を発表したのは、世界に衝撃を与えた。この事象を拡大解釈して「ファインダイニングは死んだ」とする報道も駆け巡ったが、直後2月の筆者のインタビューに対し、レゼピ氏は、むしろ「新しい形のファインダイニングの誕生」と語っていた。

良い人材を獲得するためには高賃金と休暇など良い待遇が必要で、そのための金銭的な負担はファインダイニングの経営を圧迫している。さらにレストランは、コロナ禍のような事態に際し脆弱であることも明らかになった。

そうした状況を打開するため、レゼピ氏が2年前からレストランのラボを始動。魚醤やビネガーなどを作り、それをオンラインで販売するEコマース事業「ノーマプロジェクト」を立ち上げ、これをファインダイニングの財政基盤にするのだという。

ノーマのクリエイティブディレクターで、このプロジェクトのトーマス・フレベル氏は、このプロジェクトを、個人的にも自身が愛好するロックバンド「メタリカ」に例える。

「彼らの音楽は、ライブでその場に行くだけでなく、CDやダウンロードした音源を通して、どこでも聴くことができる。そのモデルがあるからこそ、億万長者になれた。レストランの席数には限界があり、ノーマに来てもらえる人は、ほんの一握り。せっかく長時間かけて開発した味を、より広く、多くの人とシェアできるサステナブルなビジネスモデルは何かと考えました」

筆者は7月上旬、ノーマプロジェクトの工房を訪問した。まだ内部のデザインなどが完成していないため、一部を除いて写真の公開はできないが、まだ世界のどのメディアにも書かれたことのない、その様子を紹介していきたいと思う。
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文・写真=仲山今日子

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