経済・社会

2023.07.28 11:45

タイタン号の最後を聴いた米軍の秘密兵器

では、タイタンが圧壊した音を検知していながら、米軍はその事実をなかなか公表しなかったのはなぜなのか。この防衛省関係者は「ソーサスの設置場所は秘中の秘ですから。米軍の口が重くなるのも当然でしょう」と語る。

ソーサスの位置を特定することは簡単ではない。場所にもよるが、海流がなく、海水温が一定の状態にあるなど、条件が整えば、音が2千キロから3千キロまで伸びることもあるという。今回も、タイタンが圧壊した現場からはるか離れた現場で、米軍がその音を拾っていた可能性もある。

それでも、中国やロシアは海流や海水温、塩分濃度など海洋の様々な情報や、今回のような事件、自国や他国の水上艦、潜水艦の行動などをデータベース化して保有しているとされる。今回のタイタンの事故が起きた場所から、当時の海洋の状況からどこまで圧壊音が広がるのかを計算することもできるという。防衛省関係者は「もし、ソーサスの位置を把握すれば、様々な方法を使ってソーサスを破壊する行動に出るかもしれません」と語る。

日本人なら思い起こすのが、1983年9月に起きたソ連軍機による大韓航空機撃墜事件だ。自衛隊はソ連軍機の通信を傍受していた。ソ連は当初、撃墜の事実を認めなかったが、米国が日本から提供を受けた傍受内容を公表し、国際的に圧力をかけた結果、ソ連も最終的に撃墜の事実を認めた。同時に、ソ連は無線の周波数を変えたため、自衛隊の傍受活動に影響が出た。当時の中曽根康弘首相が、日本の情報活動が受けるマイナスと、レーガン米政権に恩を売るプラスを比べた結果、防衛庁などの反対を押し切って傍受記録の提供を決断したとされる。

吉永氏は、タイタン遭難事故と大韓航空機撃墜事件では、性格が少し異なるのではないかと指摘する。「大韓航空機事件の場合、日本が通信傍受している内容を公開したことで、ソ連軍が周波数やコールサイン(呼出符号)などの通信諸元を変更しました。自衛隊のみならず西側の情報機関は変更された通信諸元を割り出すために大きな労力を割きました。でも、ソーサスの設置や運用は冷戦時代から周知の事実でした。米軍が、ソーサスによってタイタンの圧壊音を探知していたことを公表したとしても、ロシアや中国が潜水艦の音紋を変えるための改修を行わないとわかっていたため公表できたという背景があると思います」

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文=牧野愛博

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