ストリーミング配信事業は7、8年前までは些末な存在でしかなかったことから、映画やテレビ番組が露出された場合に課せられる使用料は僅かで、そこからの両組合への分配金も極めて限定されていた。
ところが、今やストリーミング視聴はペイテレビや地上波放送を脅かす存在となり、逆に視聴率が低迷したテレビ産業からの放映権収入が激減したことから、WGAとSAG-AFTRAは、AMPTPがストリーミングからの収益について改善する必要があると主張しているのである。
しかし、ディズニープラスやMax(旧HBO Max)などの大手ストリーミングサービスは、AMPTP会員であるディズニーやワーナー・ブラザース・ディスカバリーが経営しており、利益相反になることから交渉は低迷していた。
AIの脅威とストの影響
AIの脅威は、単にAIが脚本制作に介入したり、収録しておいた俳優の表情、所作、音声データに動画再生技術やディープフェイク技術を適用し、俳優が不在でも演技をさせ、WGAとSAG-AFTRAの組合員の仕事を奪うことだけではない。AIの導入による、制作過程に於ける俳優やプロダクション現場の機会削減も警戒されている。
例えば映画でもテレビ番組でも、出演者の選択は簡易スタジオでのオーディションを経て、キャスティングディレクターが推奨した俳優を、監督とプロデューサーが受け入れる方式が長年取られてきたが、AI録画ソフトを使用して俳優が自ら収録したオーディションビデオをAIが評価して提案することは、技術的には可能である。制作側は、AIを取り入れれば、オーディション関連のコストは大幅に削減できるが、SAG-AFTRAの俳優だけでなく、同盟関係にあるスタジオ技術者組合の既得権益の削減につながることの回避を主張している。
またストリーミングサービスの興隆によって、ドラマシリーズの新作発注数が従来の地上波ネットワークの年間23本から、5、6話での完結にシフトしていることから、ギャラの目減りが生じていることも背景にある。
SAG-AFTRAは16万人(WGAは1万1千人)の組合員を擁するが、このなかで俳優業だけで生活が出来ている人数は極めて少なく、著名スターが獲得する高額の出演料などから拠出される組合年金や福利厚生制度の対象となるメンバーも限られている。そのため、下積み生活を経験した俳優たちは組合員への仲間意識が強く、今回のストに支持表明するスターも後を絶たない。