アシャンプラ地区にある「カビウラス・ムリア」は1898年創業の食料品店で、キャビア、高級ワイン、燻製肉、少量生産のチーズなどの高級食品を扱っている。
店には、カタルーニャのアールヌーボーとして知られる芸術様式、モデルニスモの建築意匠を目当てに多くの観光客が訪れるが、その財布を開くことはほとんどない。古風な字体で店名が記された木造の外観や、外壁を飾る色ガラス製のレトロな商品広告、マホガニーの棚に所狭しと商品が並ぶ店内に、感嘆の声を上げ、写真を撮るだけだ。
買い物しない人には入店料を請求
店の経営者は、外観や内装の美しさがもたらした名声を誇らしく思っている。だが、カメラに向かってポーズをとるばかりで何も買わない「客」が増えすぎ、手に負えなくなってきた。そして、このほど店の入り口に、観光スポット気分でやって来る観光客を思いとどまらせる看板が登場した。「店内見学のみの場合、1人5ユーロ(約790円)いただきます」と書かれている。
店長のトニ・メリノによると、入店料を徴収された人はまだいないが、買い物をする気がないのに店に入ってくる観光客の数は大幅に減ったという。
オーバーツーリズムに悩むバルセロナ
観光客を制限するというカビウラス・ムリアの決定の背景には、カタルーニャ州の州都バルセロナを悩ませている問題がある。同市は近年、観光客の殺到に苦慮しているのだ。2022年には市内のホテルに宿泊した外国人観光客が580万人を超え、スペインで最も多くの観光客が訪れた都市となった。
市は、オーバーツーリズムによって起きる問題を軽減しようと、さまざまな対策を導入。州レベルの観光税に加え、市レベルでも観光税を追加徴収している。
観光客が支払う税金の総額は、ホテル、短期賃貸物件、キャンプ場など宿泊施設の種類によって異なり、正規の観光宿泊施設にのみ適用される。
今年に入り、バルセロナ市当局は市観光税の「段階的引き上げ」を発表した。これまで1.75ユーロ(約274円)だった税額は、4月1日から2.75ユーロ(約431円)に上がった。来年4月1日には3.25ユーロ(約509円)まで引き上げられる。
短期賃貸物件に宿泊する場合の税額も、4月から1泊当たり5ユーロに引き上げられた。うち2.25ユーロが州税、2.75ユーロが市税の扱いだ。五つ星ホテルの宿泊客は6.25ユーロ(約980円)を徴収され、地方税が3.50ユーロ(約549円)、市税が2.75ユーロの内訳となる。
来年の増税後は、たとえば五つ星ホテルなら1泊につき6.75ユーロ(約1058円)を支払わなければならなくなる。引き上げられた観光税収は、市内のインフラや公共交通機関の改善に充てられる。
(forbes.com 原文)