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2023.07.31 08:00

こだわり牛肉のサブスクで年商800億円、米ButcherBox成功の理由

Getty Images

南米パラグアイからの移民であるマイク・サルゲーロが設立した、こだわりの牛肉がつまったボックスが届くサブスクリプションサービス「ButcherBox(ブッチャーボックス)」は、2015年にデビューして以来、売上高5億5000万ドル(約770億円)を誇る米国最大級のオンライン食肉販売業者に成長した。

同社の成功は、類似した食品のサブスク企業のBlue Apron(ブルーエプロン)やHello Fresh(ハローフレッシュ)のような競合の株価が急落したのとは対照的だ。サルゲーロの事業がうまく行った原因の一つは、ベンチャー投資を避けたことにある。彼は、以前のスタートアップで投資家に痛い目に遭わされたという。

「あれはかなり幻滅させられる経験でした。投資家がいるために自分の思うように会社を作れないと感じたのです」と42歳のサルゲーロは語る。「この会社も外部からの投資を受けていたら、今頃は廃業していたはずです」

ブッチャーボックスは、収益の最大20%をSNSなどでのプロモーションに費やしている。同社は、競合他社の多くとは異なり設立当初から黒字だが、昨年のマージンは5%未満と、薄利多売が当たり前の食料品業界の水準と並んでいる。

ブッチャーボックスは、生産設備などへの投資を抑えて資産を軽くするアセットライトな経営戦略をとっている。ライバル企業とは対照的に、同社は家畜の飼育や食肉処理を行わず、豚肉の90%はPerdue(パーデュー)社傘下のNiman Ranch(ニマンランチ)から調達し、牛肉はCargill(カーギル)社が設立したオーストラリアの合弁会社から輸入している。そして、顧客が選んだ肉を毎月ドライアイスの箱に詰めて発送する。

「マイク(サロゲーロ)は賢いやつだ。落とし穴にハマらなかった」と、ブルーエプロンの共同創業者でチキン会社Cooks Venture(クックス・ベンチャー)を設立したマット・ワディアックは話す。「彼らは他社が生産した商品を売るマーケティング組織なのだ」

ブッチャーボックスが数少ない、直接投資を行った事業がドライアイスだ。2020年に、新型コロナウイルスワクチンが氷点下の温度で輸送される必要があることを知ったサルゲーロは、ドライアイス製造機を1台200万ドルで購入し、オクラホマ州とアイオワ州に自社施設を設置することを決めた。この決断により、同社は冷凍輸送コストの急騰を回避できた。ブッチャーボックスは余ったドライアイスを他社に販売している。

会社の72%を所有するサルゲーロは、そのような決断を一人で行える。ブッチャーボックスによると、同社の事業は最近、5億5000万ドル(約768億円)と評価されたという。つまり、サルゲーロの保有資産は約4億ドル(約560億円)ということになる。

「金融の専門家は、良くないことだと言いますが、私は自分の持分を増やし続けています」と、彼は笑いながらフォーブスに語った。

妻のために始めたビジネス

サルゲーロは生後4カ月のときに離婚した母親とともにパラグアイからアメリカに渡った。そして、ボストン郊外のウィリアムズバーグという小さな町に落ち着いた。

ブッチャーボックスの事業は、2014年にサルゲーロが農家から牛肉を買い始めたことから始まった。彼は、自己免疫疾患を患う妻のために、抗生物質を使わないグラスフェッド(牧草のみを食べて育った牛)の牛肉を入手する必要があった。サルゲーロは、自分で牛を一頭買いして解体し、一部を友人に売る方が安上がりだと気づいた。それが評判になり、ビジネスにしようと決めた。

その数年前に、彼は痛い目に遭っていた。サルゲーロは、ハンドメイドのアイテムを販売するサイト「CustomMade.com」を共同創業し、Google(グーグル)やFirst Round Capital(ファースト・ラウンド・キャピタル)などの投資家から3000万ドル(約42億円)を調達した。しかし、この会社は失敗に終わり、苦い思い出となった。
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編集=上田裕資

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